資格とキャリア

リスキリング支援制度の基礎知識

技術革新や産業構造の変化を背景に、働きながら新たなスキルを学び直す「リスキリング」への関心が高まっている。国は教育訓練給付制度を通じて個人の学び直しを後押ししており、転職やキャリアチェンジを考える際の後押しとして活用できる。この記事では、リスキリングの基本的な考え方から、代表的な公的支援制度である教育訓練給付金の種類と給付内容、企業向け助成金との違い、制度を利用する際の具体的な進め方までを整理する。

リスキリングとは何か

リスキリングとは、現在の職務では必要とされてこなかった新しいスキルを習得し、変化する業務内容や職種に対応できるようにする取り組みを指す。デジタル分野への注目が高まる中、IT・データ分析関連のスキルを学び直す文脈で使われることが多いが、対象となる分野はそれに限られない。介護、医療、語学、会計など幅広い分野の学び直しもリスキリングに含まれる。

似た言葉に「リカレント教育」があるが、こちらは就業と学びを繰り返しながら生涯にわたって学び続けることを指す、より広い概念として使われることが多い。リスキリングは、現在の仕事や将来のキャリアを見据えて、実務に直結するスキルを意図的に習得する取り組みという意味合いが強い。

リスキリングという言葉が広まった背景には、AIやデータ活用の普及によって既存の職務内容が変化し、これまでの経験だけでは対応しきれない場面が増えてきたという事情がある。企業側にとっても、外部から新たに人材を採用するより、既存の従業員に新しいスキルを身につけてもらう方が、業務知識や社内文化を引き継いだまま戦力化できるという利点があり、企業と個人の双方から注目される概念になっている。

リスキリングを支える制度の特徴

公的な給付制度による下支え

厚生労働省は、雇用保険の被保険者(在職者・離職者を含む)を対象に、指定された教育訓練を受講し修了した場合に受講費用の一部を支給する教育訓練給付制度を設けている。学習にかかる費用負担を軽減できるため、リスキリングの代表的な後押し策として位置づけられている。

企業主導の取り組みとの併存

個人が自ら申請する教育訓練給付金とは別に、事業主が従業員に計画的な職業訓練を行った場合に訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する人材開発支援助成金という制度もある。個人が主体的に学ぶ動きと、企業が組織として人材育成に投資する動きの両方が、リスキリングを支える仕組みとして併存している。

デジタル分野との親和性の高さ

専門実践教育訓練の対象講座には情報技術関係の資格取得を目指すものが多く含まれており、DX推進の流れと結びついた形で語られることが多い。もっとも、対象講座には医療・福祉・語学など幅広い分野が含まれているため、必ずしもデジタル分野に限定される取り組みではない点は押さえておきたい。実際には、経理職がデータ分析の基礎を学ぶ、営業職がITツールの活用スキルを身につけるといった、既存の職種にデジタルスキルを掛け合わせる形の学び直しも広く含まれている。

個人の主体性が前提になる仕組み

教育訓練給付制度は、受講する講座を自分で選び、ハローワークで手続きを行うことが前提になっている。会社から指示されて受ける研修とは異なり、どの分野を学び、どのようなキャリアにつなげたいかを自分自身で考えることが出発点になる制度だといえる。

教育訓練給付金の種類と給付内容

教育訓練給付金は、対象講座の性質に応じて3つの区分に分かれており、それぞれ給付率や上限額が異なる。厚生労働省の情報をもとに整理すると次のとおりである。

区分 対象講座の傾向 給付率 給付上限の目安
一般教育訓練給付金 雇用の安定・就職促進に資する幅広い講座 受講費用の20% 年間10万円
特定一般教育訓練給付金 速やかな再就職や早期のキャリア形成に資する講座 受講費用の40%(資格取得かつ1年以内の雇用で50%) 20万円(資格取得等の場合25万円)
専門実践教育訓練給付金 中長期的なキャリア形成に資する、専門資格の取得を目指す講座など 受講費用の50%(資格取得かつ1年以内の雇用で70%、賃金上昇を伴う場合80%) 年間40万円(条件により年間56万円・64万円)

専門実践教育訓練給付金は、看護師や介護福祉士、社会保険労務士など専門的な資格の取得を目指す講座も対象になっており、給付率が他の区分より高く設定されている。ただし、対象講座や給付率の詳細は改定される場合があるため、申請前に厚生労働省やハローワークの最新情報を確認したい。

他の学び直し支援策との違い

リスキリングを支える仕組みには、教育訓練給付制度のほかにもいくつかの選択肢がある。それぞれの立場や資金の出どころが異なるため、違いを把握しておくと自分に合った制度を選びやすくなる。

  • 教育訓練給付金(個人向け):雇用保険の被保険者本人がハローワークに申請し、受講費用の一部が支給される。申請の主体は労働者本人である。
  • 人材開発支援助成金(企業向け):事業主が従業員向けの職業訓練を計画・実施した場合に、訓練経費や賃金の一部が事業主に助成される。申請の主体は企業である。
  • 給付を伴わない自己学習:民間のスクールやオンライン講座を給付制度の対象外で受講する方法。費用は全額自己負担になるが、対象講座の制約を受けずに学べる自由度がある。

在職中に学び直したい場合は、まず自分が加入している雇用保険の状況を確認したうえで、勤務先に人材開発支援助成金の活用予定があるかを尋ねてみるのも一つの方法である。会社側の制度と個人向けの給付制度を組み合わせて使えるとは限らないため、事前に確認しておくと二重に費用負担することを避けやすい。自治体によっては独自の学び直し支援策を設けている場合もあるため、居住地や勤務地の自治体窓口で案内がないか確認しておくと、選択肢を広げられることがある。

誰が対象になるのか(支給要件)

給付率の高さに目が向きがちだが、そもそも自分が対象になるかどうかは雇用保険の加入期間で決まる。厚生労働省が示している対象者の条件は次のとおりである。

制度 在職者 離職者
一般教育訓練 受講開始日に雇用保険の被保険者で、支給要件期間が3年以上(初めて受給する場合は1年以上) 被保険者資格を喪失した日から受講開始日までが1年以内で、支給要件期間が3年以上(初回は1年以上)
専門実践教育訓練 受講開始日に雇用保険の被保険者で、支給要件期間が3年以上(初めて受給する場合は2年以上) 被保険者資格を喪失した日から受講開始日までが1年以内で、支給要件期間が3年以上(初回は2年以上)

支給要件期間は雇用保険に加入していた期間の通算である。転職を挟んでいても、空白期間の長さによっては通算できる場合があるため、自己判断せずハローワークで照会するのが確実である。

離職して学び直しを考えている場合、離職から受講開始まで1年以内という期限がある点に注意したい。退職後に講座選びで迷っているうちにこの期間を過ぎると、対象から外れてしまう。妊娠・出産・疾病等の理由がある場合は適用対象期間の延長が認められることがあるため、該当しそうなときはハローワークに相談したい。

申請の流れと期限

専門実践教育訓練と特定一般教育訓練は、受講を始めてから申請すればよいわけではなく、受講前に済ませておく手続きがある。

  1. 教育訓練給付制度の検索システムで、受講予定の講座が指定講座かどうかを確認する
  2. ジョブ・カードを作成したうえで、ハローワークまたはキャリア形成・リスキリング支援センターで訓練前キャリアコンサルティングを受ける(専門実践・特定一般で必須)
  3. ハローワークで受給資格確認の手続きを行う
  4. 受講・修了後、期限内に支給申請する
制度 支給申請の期限
専門実践教育訓練 受講開始日から6か月ごとの期間の末日の翌日から1か月以内、または修了日の翌日から1か月以内
特定一般教育訓練・一般教育訓練 受講修了日の翌日から1か月以内

申請できる期間は1か月と短い。専門実践教育訓練は6か月ごとに申請する仕組みであるため、受講中も申請の時期をカレンダーに入れておく必要がある。

「学ぶ間の生活費」を支える制度

受講費用の補助とは別に、学ぶ期間の収入減を補う仕組みも用意されている。学び直しで最も現実的な壁になるのは受講料より生活費であるため、この2つは分けて理解しておきたい。

教育訓練支援給付金

失業状態にある人が初めて専門実践教育訓練(通信制・夜間制を除く)を受講する場合、受講開始時に45歳未満であるなど一定の要件を満たせば、受講費用の給付とは別に支給される仕組みである。離職して学習に専念する選択を検討している場合は、対象になるかをハローワークで確認しておきたい。

教育訓練休暇給付金(2025年10月創設)

2025年10月1日に創設された新しい制度である。離職せずに教育訓練へ専念するため、就業規則等に基づいて連続した30日以上の無給の教育訓練休暇を取得する場合に、休暇期間中の生活費を支えるための給付が受けられる。一定の条件を満たす雇用保険の一般被保険者が対象とされている。

この給付を受けると、休暇開始前の被保険者であった期間は、失業給付(基本手当)の受給資格決定に用いる期間から除かれるとされている。つまり、後に離職した場合の基本手当の扱いに影響する可能性がある。制度が新しく、支給要件や日額の算定方法は個々の状況によって異なるため、利用を検討する段階でハローワークに確認してほしい。

働き続けながら学ぶのか、休暇を取って学ぶのか、離職して学ぶのかによって、使える制度が変わる。制度から講座を選ぶのではなく、自分の働き方の前提を決めてから制度を当てはめるという順番のほうが、選択を誤りにくい。

制度を活用する際の進め方とコツ

教育訓練給付金を利用するには、雇用保険の被保険者期間など一定の要件を満たす必要がある。支給要件の詳細な年数や最新の条件は改定される可能性があるため、申請前に住所地を管轄するハローワークで必ず確認することが欠かせない。

制度を活用する際の基本的な流れ
・ハローワークで自分が対象者に該当するか、受給資格の確認を行う
・受講を検討している講座が給付対象講座に指定されているか確認する
・専門実践教育訓練の場合は、事前にキャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを作成する
・指定された教育訓練施設で受講し、修了後に必要書類をそろえて支給申請を行う
・在職中の場合は勤務先の就業規則や休暇制度との兼ね合いも事前に確認しておく

講座選びの段階では、資格取得そのものを目的にするのではなく、その資格や知識を今後のキャリアでどう活かすかを先に考えておくと、講座選定で迷いにくくなる。転職を見据えている場合は、志望する業界や職種で実際に評価される資格・スキルかどうかを、求人情報などで確認しておくとミスマッチを防ぎやすい。

リスキリングに関するよくある質問

Q1. リスキリングとリカレント教育の違いは何ですか。

リスキリングは現在の仕事や今後のキャリアに直結する新しいスキルの習得を指すことが多く、リカレント教育は就労と学びを繰り返しながら生涯を通じて学び続けるという、より広い概念として使われることが多い。

Q2. 教育訓練給付金は誰でも利用できますか。

雇用保険の被保険者であること、一定の被保険者期間を満たしていることなど要件がある。在職者・離職者いずれも対象になり得るが、具体的な要件は個々の状況によって異なるため、ハローワークでの確認が必要である。

Q3. 給付金はいつ受け取れますか。

一般教育訓練給付金と特定一般教育訓練給付金は、講座修了後に必要書類をそろえて申請し、審査を経て支給される。専門実践教育訓練給付金は、訓練期間中に原則6か月ごとに支給される仕組みになっている。

Q4. 対象講座はどこで確認できますか。

厚生労働省が公開している教育訓練講座検索システムなどで、給付対象として指定されている講座を確認できる。受講を検討している講座が対象かどうかは、申し込み前に必ず確認しておきたい。

Q5. 会社に在籍しながら利用できますか。

在職中でも要件を満たせば利用できる。ただし、講座によっては平日昼間の通学が必要な場合もあるため、勤務先の就業規則や有給休暇の取得しやすさもあわせて確認しておくとよい。

Q6. 資格を取得できなかった場合、給付金は返還が必要ですか。

一般教育訓練給付金や特定一般教育訓練給付金の基本部分は、講座を修了すれば支給対象になり、資格試験に合格するかどうかで返還を求められるものではない。ただし上乗せ給付には資格取得等の条件が設定されている区分もあるため、制度ごとの条件を確認する必要がある。

Q7. 人材開発支援助成金は労働者本人が申請できますか。

人材開発支援助成金は事業主が申請する制度であり、労働者本人が直接申請するものではない。従業員として利用したい場合は、勤務先が制度を活用する意向があるかを確認する必要がある。

Q8. リスキリングはデジタル分野以外でも対象になりますか。

対象になる。教育訓練給付制度の対象講座には、医療・福祉・語学・会計・法律関連など幅広い分野が含まれており、デジタル分野に限定された制度ではない。

Q9. 独学でスキルを身につける場合との違いは何ですか。

独学は費用を給付制度に頼らない分、学ぶ内容や進め方の自由度が高い。一方で教育訓練給付制度を利用する場合は、対象講座の範囲内で学ぶ必要がある代わりに、費用の一部が支給されるという違いがある。目的や予算に応じて使い分けるとよい。

Q10. 給付金の申請はオンラインでも可能ですか。

申請手続きの詳細や対応状況は制度改定によって変わる可能性があるため、最新の申請方法についてはハローワークインターネットサービスや管轄のハローワークで確認することが確実である。

Q11. 専門実践教育訓練を受ける際のジョブ・カードとは何ですか。

ジョブ・カードは、職務経歴やこれまでの職業能力、今後のキャリアプランなどを整理して記録する書類で、専門実践教育訓練給付金を申請する際は、事前にキャリアコンサルティングを受けたうえで作成することが求められている。

Q12. 転職活動と学び直しはどちらを先に進めるべきですか。

目指すキャリアによって順序は変わる。未経験の分野へ大きく方向転換したい場合は、先に学び直しで基礎的な知識・資格を身につけてから転職活動に進む方が、応募できる求人の幅を広げやすいことが多い。

Q13. 教育訓練給付金と教育ローンは併用できますか。

制度の目的が異なるため、給付金の対象となる講座費用について教育ローンを併用すること自体は禁じられていないことが多い。ただし金融機関ごとの契約条件によって扱いが異なる場合があるため、利用予定の金融機関に個別に確認しておくと安心である。

Q13-2. 働きながら休暇を取って学ぶ制度はありますか。

2025年10月1日に教育訓練休暇給付金が創設された。就業規則等に基づき連続した30日以上の無給の教育訓練休暇を取得する場合に、一定の条件を満たす雇用保険の一般被保険者が対象になる制度である。離職せずに学習へ専念したい場合の選択肢として検討できる。

Q13-3. 初めて利用する場合、雇用保険の加入期間は何年必要ですか。

初めて教育訓練給付金を受給する場合、一般教育訓練は1年以上、専門実践教育訓練は2年以上の支給要件期間が必要とされている。2回目以降はいずれも3年以上である。

Q14. 給付率や対象講座は今後変わりますか。

教育訓練給付制度はこれまでも制度改定が行われてきており、給付率や対象講座、支給要件が見直される可能性がある。申請を検討する際は、厚生労働省やハローワークで最新の情報を確認したうえで進めることが望ましい。

まとめ

リスキリングは、変化する業務内容や職種に対応するための学び直しであり、国が整備する教育訓練給付制度がその後押しの中心的な役割を担っている。一般・特定一般・専門実践の3つの区分では対象講座や給付率が異なるため、自分が受けたい講座がどの区分に該当するかをまず確認したい。企業向けの人材開発支援助成金など関連する制度との違いも踏まえたうえで、自分のキャリアプランに合った制度を選び、ハローワークで要件と手続きを確認しながら計画的に進めることが、リスキリングを無理なく続けるための鍵になる。

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