「手話通訳士」という言葉を聞いたことはあっても、似た名称の「手話通訳者」とどう違うのか、どうすれば取得できるのかを正確に説明できる人は多くありません。手話に関する資格は国レベルのものと都道府県レベルのものが併存しており、制度が分かりにくいのが実情です。この記事では、手話通訳士の定義、手話通訳者との違い、試験内容、取得までのルートを、実施団体である社会福祉法人聴力障害者情報文化センターや厚生労働省の公表情報にもとづいて整理します。
手話通訳士とは
手話通訳士は、厚生労働大臣公認の「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」に合格し、実施団体である社会福祉法人聴力障害者情報文化センターに登録した人に与えられる資格です。同センターは、手話を用いて聴覚障害者とその他の者の意思疎通を仲介する業務について、知識と技能を審査・証明する役割を担っています。
手話通訳士は全国で通用する資格であり、都道府県が実施する「手話通訳者」の認定制度とは実施主体・通用範囲が異なります。この構造の違いを理解することが、手話通訳の資格制度を把握する第一歩になります。
手話通訳士と手話通訳者の違い
手話に関する公的な資格・認定には、大きく分けて「手話通訳士」と「手話通訳者」の2種類があります。名前が似ているため混同されがちですが、実施主体や通用範囲が異なります。手話通訳者は、社会福祉法人全国手話研修センターが問題を作成する「手話通訳者全国統一試験」に合格したうえで、各都道府県・政令指定都市の実施団体に登録する仕組みです(大阪府のみ独自の登録試験制度)。
| 項目 | 手話通訳士 | 手話通訳者 |
|---|---|---|
| 実施団体 | 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター(厚生労働大臣公認) | 社会福祉法人全国手話研修センターが試験問題を提供し、各都道府県等の実施団体が試験を実施 |
| 通用範囲 | 全国 | 登録した都道府県・政令指定都市の範囲が基本 |
| 受験資格 | 20歳以上(学歴・実務経験の指定なし) | 実施団体ごとに定める(都道府県の手話通訳者養成講座修了などを条件とする場合がある) |
| 試験構成 | 学科試験(4科目)・実技試験(聞取り通訳、読取り通訳) | 筆記試験・実技試験(実施団体による) |
| 登録者数の目安 | 4,378人(令和8年4月1日現在、聴力障害者情報文化センターの登録者数による) | 公式サイトで確認(都道府県ごとの合計は一元集計として未確認) |
手話通訳士試験の受験資格・試験内容
手話通訳技能認定試験の受験資格は、受験日の属する年度末までに20歳に達していることのみで、学歴や実務経験は問われません。試験は年1回実施され、埼玉・東京・大阪・福岡など複数の会場で行われています(試験地は年度により変更される場合があるため、受験時は最新の受験の手引を確認してください)。
試験は学科試験と実技試験の2段階で構成されます。
- 学科試験(4科目):障害者福祉の基礎知識、聴覚障害者に関する基礎知識、手話通訳のあり方、国語
- 実技試験(2科目):聞取り通訳試験(音声による出題を手話で解答)、読取り通訳試験(手話による出題を音声で解答)
前年度の学科試験で合格基準を満たしていた場合、翌年度は学科試験の免除を申請できる制度があります。合格率は実施団体の公表値でもおおむね1割前後で、第36回(令和7年度)は受験者1,113名に対して合格者125名、11.2%でした。
| 回(年度) | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 第32回(令和3年度) | 1,071名 | 103名 | 9.6% |
| 第33回(令和4年度) | 1,097名 | 146名 | 13.3% |
| 第34回(令和5年度) | 1,041名 | 127名 | 12.2% |
| 第35回(令和6年度) | 1,076名 | 59名 | 5.5% |
| 第36回(令和7年度) | 1,113名 | 125名 | 11.2% |
毎年1,000人あまりが受験して、合格者は100人前後にとどまります。第35回は5.5%まで下がり、第1回から第36回までの累計でも受験者32,230名に対し合格者4,426名(13.7%)です。第36回の合格者の平均年齢は47.1歳で、50代が4割を占めました。学科試験は4科目すべてで得点があり、総得点の60%程度(難易度で補正)以上が合格の基準です。
手話通訳士になるまでのルート
手話通訳士試験そのものには手話の学習経験を証明する受験資格はありませんが、実技試験で高い通訳スキルが問われるため、段階的に学ぶルートを取る人が一般的です。
- 手話奉仕員養成講座:市区町村等が実施する入門的な講座で、日常会話レベルの手話を学びます。
- 手話通訳者養成講座:都道府県等が、厚生労働省の養成カリキュラムに基づいて実施する講座で、通訳に必要な知識・技術を学びます。
- 手話通訳者全国統一試験:合格すると、都道府県・政令指定都市の登録手話通訳者として活動できます。
- 手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験):手話通訳者としての実務経験を積んだうえで、全国レベルの手話通訳士試験に挑戦するのが一般的な流れです。
手話通訳士試験は学歴や講座修了を受験資格として求めていないため、独学や個人指導で実力をつけて直接挑戦することも制度上は可能です。ただし、実技試験の水準を考えると、養成講座や現場経験を積んでから受験する人が多いのが実情です。
名称独占資格としての手話通訳士、公的な場面での役割
手話通訳士は、手話通訳の業務そのものを独占する業務独占資格ではなく、資格を持たない人が手話通訳を行うこと自体は禁止されていません。一方で、「手話通訳士」という名称を名乗れるのは試験に合格し登録した人に限られる名称独占資格です。政見放送や裁判など公的性格の強い場面では、手話通訳士の資格保有が実質的に求められる場合があるとされており、資格の有無が活動の幅に影響します。この点は制度や運用によって変わり得るため、最新の運用は実施団体や関係機関の公式情報で確認してください。
他の福祉・言語系資格との違い
手話通訳士は「言語の仲介」と「福祉分野の専門知識」の両方が問われる資格という点で、他の言語系・福祉系資格と性質が異なります。
- 通訳案内士(全国通訳案内士):外国語を用いて訪日外国人に旅行案内を行う国家資格で、業務独占資格である点が手話通訳士と異なります。
- 登録日本語教員:日本語教育の専門性を認定する国家資格で、対象言語・分野は異なりますが、専門知識を審査する試験制度である点は共通します。
- 福祉用具専門相談員:福祉分野の専門職という点では手話通訳士と共通しますが、対人コミュニケーションではなく福祉用具の選定・助言を担う点が異なります。
資格の種類ごとに「業務独占」か「名称独占」か、認定主体が国か都道府県かという構造を押さえておくと、制度の違いを整理しやすくなります。
よくある質問
Q1. 手話通訳士と手話通訳者、どちらを先に目指すべきですか?
手話通訳士試験の受験資格自体に学歴や講座修了の条件はありませんが、実技試験のレベルが高いため、まず手話奉仕員養成講座や手話通訳者養成講座で基礎を固め、手話通訳者として経験を積んでから手話通訳士を目指す人が多いです。
Q2. 手話通訳士試験に受験資格の制限はありますか?
受験日の属する年度末までに20歳に達していることが条件で、学歴や実務経験は問われません。
Q3. 手話通訳士試験は独学でも合格できますか?
制度上は独学でも受験できますが、学科試験は福祉・聴覚障害・手話・国語にまたがる専門知識が、実技試験は高い通訳スキルが問われるため、養成講座や実務経験を経て受験する人が大半です。
Q4. 手話通訳士の資格がないと手話通訳の仕事はできませんか?
手話通訳士は名称独占資格であり、業務独占資格ではないため、資格がなくても手話通訳に携わること自体は可能です。ただし、政見放送や裁判など公的性格の強い場面では資格保有が実質的に求められる場合があるとされています。
Q5. 手話通訳者に登録すると全国で活動できますか?
手話通訳者は都道府県・政令指定都市単位で登録する制度が基本のため、活動範囲は登録先の自治体が中心になります。全国で通用する資格を目指す場合は手話通訳士を検討します。
Q6. 手話通訳士試験の実施頻度や会場を知るにはどうすればよいですか?
試験は年1回実施されており、実施団体である聴力障害者情報文化センターが毎年公表する「受験の手引」で、最新の受験資格・会場・日程を確認できます。
Q7. 手話通訳士試験に免除制度はありますか?
前年度の学科試験で合格基準を満たしていた場合、翌年度に学科試験の免除を申請できる制度があります。詳細は実施団体の公式サイトで確認してください。
まとめ
手話通訳士は、聴力障害者情報文化センターが実施する手話通訳技能認定試験に合格し登録することで名乗れる、全国レベルの名称独占資格です。都道府県単位で認定される手話通訳者とは実施主体・通用範囲が異なり、手話通訳者としての経験を積んでから手話通訳士を目指すルートが一般的です。受験資格自体は20歳以上であることのみですが、学科・実技とも専門性が高いため、養成講座や実務経験を踏まえた準備が現実的な選択肢になります。制度の詳細や最新の試験情報は、必ず実施団体の公式サイトで確認してください。
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- 福祉用具専門相談員とは?必置資格の仕組みと指定講習53時間の中身
出典
- 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」https://www.jyoubun-center.or.jp/slit/exam/(確認日: 2026年9月15日)
- 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター「試験案内・受験申込等」https://www.jyoubun-center.or.jp/slit/exam/about/(確認日: 2026年9月15日)
- 厚生労働省「手話通訳士に関するページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30553.html(確認日: 2026年9月15日)
- 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター「第1回から第36回までの申込者数・受験者数・合格者数等の推移」「第36回手話通訳技能認定試験 試験結果」「第37回 試験案内・受験の手引」「手話通訳士登録者数(令和8年4月1日現在)」(確認日: 2026年10月4日)
- 厚生労働省「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム等について」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7815&dataType=1&pageNo=1(確認日: 2026年9月15日)
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