自動車整備士は、自動車の点検・整備を担う技術系の国家資格です。運転免許のように身近ではありませんが、車検や日常点検、事故車の修理など、私たちが安全に車に乗り続けるための土台を支えています。「1級・2級・3級で何が違うのか」「未経験からでも取れるのか」「独立に有利なのか」といった疑問は多く、検索しても求人サイトごとに説明の粒度がまちまちで分かりにくいのが実情です。
この記事では、国土交通省と一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(JASPA)などの公式情報をもとに、等級・種別の違い、資格取得の2つのルート、業務範囲、そして2027年に予定されている制度改正までを整理して解説します。
自動車整備士とは 国家資格としての位置づけ
自動車整備士は、道路運送車両法に基づいて国土交通省が実施する「自動車整備士技能検定」に合格することで取得できる国家資格です。学科試験と実技試験があり、一定の受験資格(実務経験または養成施設修了)を満たした人だけが受験できます。等級が上がるほど扱える整備の範囲が広がり、2級以上は多くの整備工場で採用の目安とされています。
試験は国土交通省が直接実施するほか、JASPAが実施する「自動車整備技能登録試験」に合格すると、国が行う技能検定の学科試験や実技試験の一部が免除される仕組みもあります。都道府県ごとの自動車整備振興会が窓口となり、受験申込や講習の案内を行っています。
自動車整備士の等級・種別を比較
自動車整備士は等級(1級・2級・3級・特殊)と、対象となる自動車の種類によって細かく分かれています。現行制度における主な種別は次の通りです。
| 等級 | 主な種別 | できる整備の目安 |
|---|---|---|
| 1級 | 一級小型自動車 など | 2級の整備範囲に加え、電子制御装置を含む高度な故障診断や整備主任者・検査員的な役割を担う |
| 2級 | 二級ガソリン自動車/二級ジーゼル自動車/二級自動車シャシ/二級二輪自動車 | エンジンや車体まわりを含む分解整備全般、車検に関わる点検整備 |
| 3級 | 三級自動車ガソリン・エンジン/三級自動車ジーゼル・エンジン/三級自動車シャシ/三級二輪自動車 | オイル交換やタイヤ交換など基礎的な整備、上位者の指導のもとでの分解整備 |
| 特殊 | 自動車タイヤ/自動車電気装置/自動車車体 | それぞれの専門分野に特化した整備(等級とは別立ての資格) |
1級には従来、一級大型自動車・一級小型自動車・一級二輪自動車の3種別がありますが、現場で最も一般的に取得されているのは一級小型自動車です。2級・3級は対象車種(ガソリン/ジーゼル/シャシ/二輪)によって試験区分が分かれている点が特徴です。
自動車整備士になるには 資格取得の2つのルート
受験資格の得方には、大きく分けて「実務経験ルート」と「養成施設ルート」の2つがあります。
実務経験ルート
整備工場などで一定期間の実務経験を積んでから受験する方法です。2025年7月8日施行の検定規則改正により、必要な実務経験期間が短縮されました。改正前は3級で半年から1年以上、2級で1年から3年以上とされていましたが、改正後は3級が半年程度、2級は3級合格後2年程度が目安となっています。1級については、2級合格後3年以上の実務経験を積むルートが基本です。実務経験の年数や条件は今後の告示・通達で変更される可能性があるため、受験前に運輸支局や整備振興会の最新情報で確認することをおすすめします。
養成施設ルート
国土交通大臣が指定した自動車整備の専門学校や高校などの「養成施設」を修了する方法です。実務経験なしで入学できる一種養成施設と、実務経験者向けの二種養成施設があり、修了すると該当する課程の実技試験が一定期間(修了後2年間)免除される扱いになっています。1級整備士養成課程を置く専門学校を修了すれば、実務経験なしで卒業と同時に1級の受験資格を得られるコースも用意されています。
養成施設ルートは在学中に実技を体系的に学べるため実技試験免除の恩恵が大きい一方、実務経験ルートは働きながら資格を取得できる利点があります。どちらのルートを選ぶかは、費用・期間・現在の就業状況によって検討するとよいでしょう。
業務範囲と独占業務 分解整備・特定整備とは
自動車整備士の資格そのものに厳密な業務独占はありませんが、実際には整備士資格を持つ者でなければ担えない業務があります。代表的なのが、車検や日常点検の結果を記録する「点検整備記録簿」への記名です。分解整備(エンジンやブレーキなど保安上重要な部品を取り外す整備)を行った場合、整備士資格を持つ者が記録簿に記名する必要があります。
2020年4月には、従来の「分解整備事業」の制度が「自動車特定整備事業」に移行し、自動ブレーキやレーンキープアシストなどに使われるカメラ・レーダーの取り外し・調整を行う「電子制御装置整備」が新たに整備の対象に加わりました。先進運転支援システム(ADAS)の普及に伴い、機械的な分解整備だけでなく電子制御まわりの知識が求められるようになっています。
認証工場と指定工場の違い
特定整備を行うには、国から「認証工場」の認証を受ける必要があります。認証工場は一定の作業場・機械・従業員を備えた工場で、車検自体は運輸支局などへ車両を持ち込んで受けます。これに対し「指定工場」は認証工場のうち、検査設備を備えて自動車検査員を選任し、自社内で保安基準適合証を発行できる、いわゆる民間車検場です。認証工場・指定工場のいずれも、整備士資格を持ち一定の実務経験を積んだ「整備主任者」を1名以上選任することが義務づけられています。
2027年に迫る資格制度改正 電動車対応で何が変わるのか
国土交通省は令和4年5月の報告書「自動車整備士資格制度等の見直しについて」で、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)やレーンキープアシスト(LKA)といった先進安全技術の普及、ハイブリッド車(HV)・電気自動車(EV)の急速な拡大、そして「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で乗用車の新車販売を2035年までに電動車100%とする方針を背景に、整備士資格制度の見直しを打ち出しました。
この見直しにより、現行の一級大型自動車整備士・一級小型自動車整備士・一級二輪自動車整備士を統合した新しい「一級自動車整備士(総合)」が設けられ、整備主任者や自動車検査員としての役割を担う位置づけが明確化される予定です。特殊整備士についても、自動車電気装置整備士が自動車電気・電子制御装置整備士へ、自動車車体整備士が自動車車体・電子制御装置整備士へと、電子制御の要素を含めた名称・試験内容に変わる見込みです。新制度の学科試験は令和9年(2027年)3月から、1級については令和10年(2028年)3月から開始される予定とされていますが、実施時期や経過措置の詳細は今後の公式発表で変更される可能性があるため、受験を検討する際は国土交通省や整備振興会の最新の告知を確認してください。
あわせて、2025年7月の検定規則改正では、電動車の普及を見据えて特定整備工場の設備要件も見直され、トーイン・ゲージやキャンバー・キャスター・ゲージの備置義務が削除される一方、エンジン・タコテスターの代替としてスキャンツール(外部故障診断機)の備置が認められるようになりました。自動運行装置(自動運転)搭載車に関する検査資格の見直しは2029年4月に施行が予定されています。
他の技能系国家資格との違い
自動車整備士は、実技試験を伴う技術系の国家資格という点で、電気工事士や各種の技能検定(技能士)と近い性格を持ちます。ただし、業務独占の範囲や実務経験ルートの有無、養成施設卒業による試験免除の仕組みは資格ごとに異なります。業務独占・必置資格・名称独占の違いについては「その資格は仕事にどう効くのか?業務独占・必置・名称独占で12資格を比較」で整理しているので、あわせて確認すると自動車整備士の立ち位置がつかみやすくなります。
また、実務経験を積みながら段階的に上位資格を目指す仕組みは、技術士など他の技術系資格にも見られる特徴です。ルートの違いについては「技術士とは?21部門と二段階試験、実務経験ルートを整理する」も参考になります。
就職・独立での評価のされ方
就職・転職では、3級だけでは任される業務が限られるため、2級以上の取得が事実上の目安とされる求人が多く見られます。2級を取得すると分解整備や車検に関わる点検整備を単独で担当できる範囲が広がり、整備主任者としての実務経験を積むことで、将来的に自分の工場を持つ独立開業にもつながりやすくなります。認証工場・指定工場の開設には整備主任者の選任が必須であるため、整備士資格と実務経験の両方が独立の実質的な条件になっている点は、他の資格と比較しても分かりやすい特徴です。独立開業しやすい資格全般との比較は「独立開業しやすい資格とは、代表的な選択肢を比較する」でも取り上げています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自動車整備士は独学で取得できますか?
学科試験の知識は独学でも学べますが、受験資格として実務経験または養成施設修了のいずれかが必要です。実技試験も課されるため、実際の整備作業に触れる環境(整備工場での勤務や養成施設への通学)が前提になります。
Q2. 3級を取らずに2級から受験できますか?
実務経験ルートの場合、2級の受験資格は原則として3級合格後の実務経験が前提です。養成施設ルートでは、課程によっては3級を経ずに上位級の受験資格を得られる場合があるため、通学を検討している学校の課程内容を確認してください。
Q3. 1級整備士でなければできない仕事はありますか?
現行制度で1級整備士に厳密な業務独占があるわけではありませんが、電子制御装置を含む高度な故障診断や、整備主任者・自動車検査員としての役割を期待される場面が多く、実務上は2級以上との差が評価に反映されやすくなっています。
Q4. 電気自動車(EV)の整備には別の資格が必要ですか?
高電圧回路を扱う作業には、整備士資格とは別に「自動車の整備等の業務に関する特別教育」など安全教育の受講が求められる場合があります。整備士資格だけで足りるかどうかは作業内容によって異なるため、勤務先や養成施設を通じて最新の要件を確認するのが確実です。
Q5. 資格を取れば独立して整備工場を開けますか?
資格取得だけでは開業できません。認証工場・指定工場として国の認証を受けるには、作業場や設備の基準を満たしたうえで、1級または2級整備士かつ一定の実務経験を積んだ整備主任者を1名以上選任する必要があります。
Q6. 2027年の制度改正で今の資格は無効になりますか?
現時点で公表されている情報では、新旧の資格制度は一定期間並行して運用される見込みとされています。既存の資格が改正後に無効になるかどうかを含め、詳細は国土交通省や整備振興会の正式な告知で確認してください。
Q7. 二輪自動車整備士と普通自動車の整備士は別物ですか?
はい。二輪自動車整備士は2級・3級それぞれに区分があり、四輪車を対象とするガソリン/ジーゼル/シャシの区分とは別の試験区分になっています。バイクの整備を専門にしたい場合は、二輪自動車の種別で受験することになります。
まとめ
自動車整備士は、1級・2級・3級という等級と、ガソリン/ジーゼル/シャシ/二輪といった種別が組み合わさった、細かく区分された国家資格です。受験資格には実務経験ルートと養成施設ルートがあり、2025年7月の検定規則改正で実務経験の目安期間が短縮されました。点検整備記録簿への記名や整備主任者の選任要件を通じて、資格と実務経験が就職・独立の両面で評価される仕組みになっている点も押さえておきたいポイントです。さらに2027年には電動車・先進運転支援技術への対応を軸とした制度改正が予定されており、今後受験を検討する人は国土交通省や日本自動車整備振興会連合会(JASPA)、各都道府県の自動車整備振興会が発信する最新情報を随時確認することが欠かせません。
技術系国家資格全般との比較や、資格取得後の名乗り方・維持コストについては、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
- その資格は仕事にどう効くのか?業務独占・必置・名称独占で12資格を比較
- 独立開業しやすい資格とは、代表的な選択肢を比較する
- 試験に合格しても名乗れない資格がある 4つの型
- 取ったあと手間がかかる資格はどれ?更新・維持の負担で12資格を比較
- 技術士とは?21部門と二段階試験、実務経験ルートを整理する
- 運行管理者とは?貨物と旅客の違い、選任義務、受験資格を一次情報で解説
- ピアノ調律技能士とは?1級・2級・3級の違いと資格取得ルートを解説
出典
- 国土交通省中部運輸局「自動車整備士技能検定制度」 https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/seibi/seido.html (確認日:2026年9月15日)
- 国土交通省「自動車:自動車整備工場には認証工場と指定工場があります。その違いは?」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/ninshoutoshiteinochigai.html (確認日:2026年9月15日)
- 国土交通省「自動車整備士資格制度等の見直しについて 報告書」令和4年5月 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001489710.pdf (確認日:2026年9月15日)
- 一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(JASPA)「自動車整備士を希望されるみなさんへ」 https://www.jaspa.or.jp/mechanic/faq/ (確認日:2026年9月15日)
- 一般社団法人日本自動車会議所「国交省 2、3級整備士の受験で必要な実務期間を短縮 特定整備の工場設備も見直し」 https://www.aba-j.or.jp/info/industry/24104/ (確認日:2026年9月15日、2025年7月8日施行の改正について報道)
- 国土交通省「自動車:指定自動車整備事業制度について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/shiteiseibi.html (確認日:2026年9月15日)
この記事の集計方針や出典の扱いについては、運営者情報ページにまとめています。