旅行会社や代理店の営業所には、旅行業法に基づいて「旅行業務取扱管理者」という資格を持つ人材を必ず配置しなければならない。この記事では、旅行業務取扱管理者とはどのような資格か、総合・国内・地域限定という3つの種類の違い、混同されやすい旅程管理主任者との違い、そして資格を選ぶ際の考え方までをまとめて整理する。読み終える頃には、自分の目指すキャリアに合わせてどの試験区分を選べばよいか判断できる状態になるはずだ。
旅行業務取扱管理者とは何か
旅行業務取扱管理者は旅行業法に定められた国家資格であり、旅行業者や旅行業者代理業者が営業所ごとに専任者を置くことを義務づけられている、いわゆる必置資格である。管理者が不在のまま営業所を運営することは旅行業法違反にあたり、行政処分の対象になり得る。資格取得者は、旅行契約の取引条件の説明、契約書面の交付、広告表示の管理、苦情処理体制の整備など、旅行業法が定める10項目の業務について管理・監督する役割を担う。
この資格がなければ旅行会社や代理店を開業して旅行商品を企画・販売することは事実上できないため、旅行業界における実務上の入口資格と位置づけられている。
資格の特徴を分解する
受験資格に制限はほぼない
年齢や学歴、実務経験による受験制限は設けられておらず、一定の欠格事由に該当しない限り誰でも受験できる。学生や異業種からの転職希望者が実務経験なしに挑戦できる点は、他の業界資格と比べても間口が広いといえる。
試験の実施機関が区分によって異なる
総合旅行業務取扱管理者試験と国内旅行業務取扱管理者試験は、観光庁長官の試験事務代行機関である旅行業協会が実施する。具体的には、総合試験は一般社団法人日本旅行業協会(JATA)が、国内試験は一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)が代行している。一方で、地域限定旅行業務取扱管理者試験は観光庁が直接実施する点が異なる。
試験は年1回、令和8年度の国内試験はCBT方式
国内旅行業務取扱管理者試験は、令和8年度の受験案内ではパソコンを使うCBT方式で、9月3日から25日のうち受験者が選んだ日時に受験する形になっている。総合試験は令和8年度も会場で受ける紙のマークシート方式で、10月25日(日)に行われる(受験区分Aは第1時限が業法・約款の80分、第2時限が国内実務・海外実務の120分)。受験手数料は13,000円(非課税)と別にシステム利用料660円で、申請は8月7日で締め切られ、結果発表は12月10日の予定である。国内試験の受験手数料は8,000円(非課税)とシステム利用料660円である。地域限定試験は観光庁が実施し、令和8年度は9月27日である。出題は旅行業法や約款に関する知識、国内・海外の実務知識が中心となる。総合試験では国内旅行実務に加えて海外旅行実務が加わるため、出題科目数そのものが国内試験より多くなる。
資格の分類・種類
旅行業務取扱管理者には、扱える旅行の範囲に応じて3つの区分がある。それぞれ試験の実施機関や出題範囲、目安となる合格率が異なるため、自分がどの範囲の業務に関わりたいかを踏まえて選ぶ必要がある。
| 区分 | 取り扱える範囲 | 試験実施機関 | 主な試験科目 |
|---|---|---|---|
| 総合旅行業務取扱管理者 | 国内・海外いずれの旅行も可 | 日本旅行業協会(JATA) | 旅行業法、約款、国内実務、海外実務 |
| 国内旅行業務取扱管理者 | 国内旅行のみ | 全国旅行業協会(ANTA) | 旅行業法、約款、国内実務 |
| 地域限定旅行業務取扱管理者 | 主たる営業所の所在市町村と隣接市町村までの募集型企画旅行等 | 観光庁 | 旅行業法、約款、国内実務(航空運賃等を除く) |
全国旅行業協会が公表している令和7年度の実施結果によると、国内旅行業務取扱管理者試験の全科目受験者の合格率は34.1%(受験者9,759人、合格者3,330人)である。日本旅行業協会の令和7年度の実施結果では、総合試験の全科目受験(受験区分A)の合格率は11.7%(令和6年度は13.2%)、科目免除者を含む全体では26.1%(同28.2%)だった。年度ごとの数字は次のとおりで、総合試験の全科目受験は1割前後と、国内試験よりかなり狭い。
| 年度 | 国内試験 全科目 受験者 | 国内試験 全科目 合格率 | 総合試験 全体 受験者 | 総合試験 全体 合格率 | 総合試験 区分A(全科目) 合格率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 9,910人 | 40.9% | 7,135人 | 25.0% | 6.2% |
| 令和4年度 | 8,343人 | 32.9% | 5,266人 | 31.6% | 13.5% |
| 令和5年度 | 8,458人 | 35.7% | 4,699人 | 22.3% | 7.9% |
| 令和6年度 | 10,141人 | 31.4% | 4,680人 | 28.2% | 13.2% |
| 令和7年度 | 9,759人 | 34.1% | 4,519人 | 26.1% | 11.7% |
総合試験の全体の合格率には、国内試験の合格者などで一部科目が免除される人も含まれる。令和7年度は約款だけを受ける区分Fが96.5%、業法と約款の区分Dが58.0%だった一方、業法・約款・海外旅行実務を受ける区分Cは5.9%、約款・海外旅行実務の区分Eは29.6%で、海外旅行実務を含む区分ほど合格率が低い。合格点は各受験科目とも満点の60%以上で、海外旅行実務は200点満点である。国内旅行実務・海外旅行実務で基準点に達した科目は、翌年度の総合試験に限り免除される。国内試験の令和7年度の申込者は会社員31.4%、学生30.0%、旅行業14.7%だった。
地域限定試験は出題範囲が絞られていることもあり、3区分の中では合格率が高い傾向にある。
他の類似資格との違い
旅程管理主任者との違い
旅行業務取扱管理者とよく混同される資格に「旅程管理主任者」がある。旅程管理主任者は添乗業務(ツアーへの同行、行程の管理)を行うために必要な資格で、観光庁長官登録研修機関が実施する研修・試験によって取得する。営業所で契約や広告を管理・監督するのが旅行業務取扱管理者、現場でツアーに同行し旅程を管理するのが旅程管理主任者という役割の違いがあり、どちらも国内・総合の区分がある点は共通するが、法律上の位置づけも取得ルートも別物である。
通訳案内士との違い
外国人旅行者に対して報酬を得て外国語で案内を行う通訳案内士も旅行業界の資格の一つだが、これは語学力を活かした案内業務のための資格であり、営業所の管理監督を担う旅行業務取扱管理者とは目的が異なる。旅行会社でのキャリアを考える際は、管理業務を志向するのか、添乗や通訳など現場での実務を志向するのかによって、目指すべき資格が変わってくる。
資格の選び方と取得のコツ
どの区分を目指すべきかは、将来どのような業務に携わりたいかによって決まる。海外旅行の企画・販売にも関わりたい場合は総合、国内旅行に特化したキャリアを考えている場合は国内、地域の観光振興や着地型旅行に関わりたい場合は地域限定が候補になる。
研修修了による科目免除を活用する:全国旅行業協会などが実施する研修を修了すると、修了年度とその翌年度に限り、国内旅行実務など一部科目が免除される制度がある。実務経験者はこの制度を使うと負担を減らせる。
いきなり総合を狙うか、国内から段階的に進むかを決める:総合試験は科目数が多く出題範囲も広いため、国内試験に合格してから総合を目指すルートを選ぶ人も少なくない。
最新の試験日程・受験案内は必ず公式サイトで確認する:試験地や日程は年度によって変わるため、日本旅行業協会・全国旅行業協会・観光庁それぞれの最新情報を参照する。
よくある質問
Q. 旅行業務取扱管理者はどの営業所にも必要ですか。
旅行業者・旅行業者代理業者の営業所には、旅行業法により原則として営業所ごとに専任の管理者を1名以上選任することが求められている。海外旅行を扱う営業所には総合資格者が、国内旅行のみを扱う営業所には総合または国内資格者が必要になる。
Q. 学歴や実務経験がなくても受験できますか。
受験資格に学歴や実務経験の制限はなく、一定の欠格事由に該当しなければ誰でも受験できる。ただし出題内容は実務知識中心のため、独学の場合は業界知識の学習に一定の時間を要する。
Q. 総合と国内、どちらから取得すべきですか。
海外旅行の取り扱いを見据えるなら総合が必要になるが、出題範囲が広く難易度も高いとされる。国内旅行を中心にキャリアを考えている場合や、まず1つ資格を取得して実務経験を積みたい場合は国内から挑戦する人も多い。
Q. 地域限定旅行業務取扱管理者はどのような人に向いていますか。
主たる営業所の所在地とその隣接市町村の範囲に限定した募集型企画旅行等を扱う資格で、地域密着型の旅行会社や、着地型観光に関わりたい人に向いている。出題範囲が絞られている分、3区分の中では合格率が高めとされる。
Q. 資格を取得すると独立や開業に役立ちますか。
旅行業を営むには旅行業登録に加えて営業所ごとの管理者選任が必須であるため、この資格を保有していることは開業準備の前提条件の一つになる。ただし資格単体で登録要件のすべてが満たされるわけではなく、旅行業登録の手続き自体は別途必要になる。
Q. 試験に合格すればすぐに管理者として働けますか。
試験合格後、旅行業協会等への登録手続きを経て初めて管理者として選任される資格を得る。合格しただけで自動的に管理者として認められるわけではない点に注意したい。
Q. 旅程管理主任者とはどちらを先に取るべきですか。
目指す業務によって異なる。営業所での契約・広告管理といった管理職を目指すなら旅行業務取扱管理者、ツアー同行や添乗業務に関わりたいなら旅程管理主任者が優先度の高い資格になる。両方を段階的に取得して業務の幅を広げる人もいる。
Q. 独学と通信講座・スクール、どちらで学ぶのがよいですか。
公式に定められた学習方法はなく、市販のテキストや過去問を使った独学で合格する人もいれば、専門学校や通信講座を利用して実務知識を体系的に学ぶ人もいる。特に総合試験は出題範囲が広いため、学習期間や実務経験の有無に応じて自分に合った方法を選ぶとよい。
Q. 一度取得した資格に更新は必要ですか。
試験合格・登録によって得られる資格そのものに有効期限はないが、実際に管理者として選任されるには旅行業協会等での手続きが必要になる。業界を離れて長期間が経つ場合は、最新の法改正や実務の変化を改めて確認しておくと安心である。
まとめ
旅行業務取扱管理者は、旅行会社の営業所ごとに配置が義務づけられた国家資格で、総合・国内・地域限定という3つの区分に分かれる。総合は海外旅行まで扱える分、出題範囲が広く難易度も高いとされ、国内は国内旅行に特化、地域限定は主たる営業所周辺の旅行に範囲を絞った資格である。添乗業務のための旅程管理主任者とは役割も取得ルートも異なるため、営業所の管理を担いたいのか現場業務を志向するのかを軸に、自分に合った資格を選んでいくとよい。
この記事の試験情報は、観光庁の「旅行業務取扱管理者」「地域限定旅行業務取扱管理者試験」のページ、全国旅行業協会(ANTA)の令和8年度国内旅行業務取扱管理者試験受験案内と令和7年度実施状況、日本旅行業協会(JATA)の令和7年度総合旅行業務取扱管理者試験実施結果を2026年9月26日に確認して整理しました。総合試験の令和3〜7年度の実施結果と令和8年度の試験方式・日程・受験料は日本旅行業協会の「実施結果(受験区分別)」と「令和8年度 総合旅行業務取扱管理者試験 受験案内」、国内試験の令和3〜7年度の結果は全国旅行業協会の「実施結果一覧表」で、2026年10月4日に確認しました。受験前に必ず各団体の公式サイトで最新情報をご確認ください。