ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、どちらが優れているという話ではなく、人材配置や評価に対する前提そのものが異なる二つの仕組みである。日本企業では長らくメンバーシップ型が主流だったが、近年は大手企業を中心にジョブ型への移行や部分導入が進んでいる。この記事では、両者の定義と違い、給与制度や採用方法の違いを比較表で整理したうえで、働く側にとっての影響、キャリア戦略への活かし方、よくある疑問までをまとめて解説する。
ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用とは何か
メンバーシップ型雇用は、職務内容を限定せずに企業へ所属することを前提とし、配置転換や異動を通じて社員のキャリアを会社側が主導する仕組みである。新卒一括採用や年功序列、終身雇用と結びついてきた日本企業に特有の形態とされる。
一方でジョブ型雇用は、職務内容や必要なスキルをあらかじめ職務記述書(ジョブディスクリプション)として明確にし、その職務に必要な人材を採用・配置する考え方である。欧米企業で広く採用されてきた形態に近く、内閣官房が2024年8月に公表した「ジョブ型人事指針」でも、人材確保や配置・育成・評価、賃金制度のあり方について企業の取り組み事例が整理されている。
両者の特徴を分解する
雇用契約の考え方の違い
メンバーシップ型は「人に仕事を合わせる」発想であり、会社が社員の適性を見ながら配置を決める。対してジョブ型は「仕事に人を合わせる」発想であり、あらかじめ定義された職務に対して適した人材を充てる。
給与制度の違い
ジョブ型雇用の給与は、年功的な要素よりも職務の価値そのものを基準にする職務給が中心となる。同じ職務であれば年齢や勤続年数に関わらず評価が近づきやすい一方、メンバーシップ型では年功序列に基づく昇給が一般的で、勤続年数や年齢が処遇に反映されやすい。厚生労働省も職務給導入を検討する企業向けにハンドブックや事例集を公開しており、実際に導入している企業の取り組み事例も紹介されている。
採用・配置の違い
ジョブ型採用では、職務記述書に基づいて必要なスキルや経験があらかじめ明示され、即戦力人材の採用に向いている。メンバーシップ型では職務を限定せず、ポテンシャルや人柄を重視した採用が行われ、入社後にOJTを通じて育成する前提が強い。
キャリア形成の違い
メンバーシップ型では会社主導の異動によって幅広い経験を積める一方、専門性が高まりにくいという構造的な課題が指摘されている。ジョブ型では専門性を軸にしたキャリア形成がしやすい反面、担当職務がなくなった場合の雇用の安定性についてはメンバーシップ型と異なる考え方が必要になる。
ジョブ型雇用が広がってきた背景
ジョブ型雇用という言葉自体は2013年ごろから使われ始めていたとされるが、企業の人事制度改革の文脈で広く語られるようになったのは2020年前後からである。テレワークの普及によって、勤務態度など従来の評価軸が使いにくくなり、成果を職務単位で捉える必要性が高まったことも、議論が加速した一因とされる。
政府側でも、内閣官房が2024年8月に「ジョブ型人事指針」を取りまとめ、人材確保の方法、配置・育成・評価の仕組み、リスキリングの進め方、賃金制度のあり方について、実際に取り組む企業の事例を整理して公表している。あわせて厚生労働省も、職務給の導入を検討する企業向けにハンドブックや事例集、中小企業向けのモデル賃金制度を紹介するなど、企業が自発的に制度を整備できる環境づくりを進めている。経済団体の側でも、大手企業の経営層が参加する会議体を通じてジョブ型雇用の考え方を後押しする議論が続けられてきた経緯があり、大手企業を中心に幹部職や専門職から段階的に導入する動きが広がっている。
雇用形態の分類・比較表
| 比較項目 | ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 |
|---|---|---|
| 基本の考え方 | 仕事に人を合わせる | 人に仕事を合わせる |
| 採用の基準 | 職務記述書に基づく専門性・経験 | ポテンシャル・人柄重視 |
| 異動・配置 | 本人の職務範囲内が原則 | 会社主導で幅広く異動 |
| 給与の基準 | 職務の価値(職務給) | 年齢・勤続年数(年功給)中心 |
| 評価の軸 | 職務の成果 | 会社への貢献・プロセス重視 |
| 雇用の安定性 | 職務がなくなれば雇用継続の考え方が変わりうる | 職務がなくなっても配置転換で雇用を維持しやすい |
| 人材育成 | 専門性を軸にした自己主導型が中心 | OJT中心で会社主導の育成 |
実際には、幹部層や専門職にはジョブ型を、若手や総合職にはメンバーシップ型を併用するハイブリッド型を採用する企業も増えている。制度の詳細は個社ごとに異なるため、自社がどちらの仕組みにどの程度近いかを把握しておくことがキャリア戦略の出発点になる。
関連する制度・言葉との違い
- 職務給と年功給:職務給は仕事の価値を基準にした給与、年功給は年齢や勤続年数を基準にした給与。ジョブ型雇用は職務給と、メンバーシップ型雇用は年功給と結びつきやすい
- ジョブディスクリプション(職務記述書):ジョブ型雇用の運用に不可欠な、職務内容・責任範囲・必要スキルを明文化した文書。メンバーシップ型では作成されないことが多い
- 総合職・一般職:メンバーシップ型雇用の枠組みの中で使われる区分であり、ジョブ型雇用にはこの区分自体がなじまない
- 同一労働同一賃金:職務内容が同じであれば待遇も同じにするという考え方で、ジョブ型雇用の思想と親和性が高い
働く側にとっての影響と活かし方
ジョブ型雇用が広がると、専門性を明確に持つ人材ほど評価されやすくなる一方で、担当職務がなくなった場合の雇用の安定性についてはメンバーシップ型と異なる考え方が必要になる。転職市場では、自分の専門性を職務記述書のような形で言語化できるかどうかが、ジョブ型を導入する企業からの評価に直結しやすい。
ジョブ型雇用への対応を意識したキャリア戦略のポイント
- これまでの実績を「何ができるか」という職務単位の言葉で説明できるように整理しておく
- 汎用的なスキルよりも、専門領域を軸にした自己紹介ができるよう準備しておく
- 関連資格の取得状況を、専門性を裏付ける材料として活用する
- 自社がジョブ型・メンバーシップ型・ハイブリッド型のどれに近いかを人事制度や規程で確認しておく
- 中途採用の選考では、これまでの実績を職務単位で説明する練習をしておくと選考が進めやすい
両制度を併用するハイブリッド型を採用する企業が増えていることからもわかるように、どちらか一方に完全に染まった働き方だけを想定するのではなく、両方の考え方を理解しておくことが、これからのキャリア戦略においては現実的な備えになる。
よくある質問
Q. ジョブ型雇用は成果主義と同じ意味ですか
同じではない。成果主義は評価・処遇の考え方の一つであり、ジョブ型雇用は職務を基準に人材を配置・評価する雇用の枠組みそのものを指す。ジョブ型雇用の中で成果主義的な評価が採用されることは多いが、両者はイコールではない。
Q. ジョブ型雇用になると解雇されやすくなりますか
日本の労働関連法制のもとでは、雇用形態がジョブ型であることを理由に解雇規制そのものが緩和されるわけではない。ただし、担当職務がなくなった場合の配置転換の考え方はメンバーシップ型と異なりうるため、企業ごとの制度設計を確認する必要がある。
Q. 新卒採用でもジョブ型は導入されていますか
職種別採用やコース別採用という形で、新卒段階から職務や勤務地を限定した採用を取り入れる企業は増えている。ただし新卒全体が一律にジョブ型に置き換わっているわけではなく、企業によって導入の度合いに差がある。
Q. ジョブ型雇用に向いている人はどんな人ですか
特定分野の専門性を継続的に伸ばしたい人や、成果を職務単位で説明できる人はジョブ型の評価軸と相性がよいとされる。逆に、幅広い業務を経験しながらキャリアを模索したい人にはメンバーシップ型の環境が合いやすい。
Q. 中小企業にもジョブ型雇用は広がっていますか
制度としての導入は大手企業が先行している傾向がある。中小企業でも職務内容を明確にした採用・処遇を取り入れる動きはあるが、業種や職種によって導入の度合いに差がある点には注意したい。
Q. ジョブディスクリプションは自分で作れますか
本来は企業側が職務を定義して作成するものだが、転職活動などの場面では、自分の職務経歴を職務記述書に近い形式(担当業務・必要スキル・実績)で整理しておくと、ジョブ型雇用を導入する企業への応募で説得力を持たせやすい。
Q. ジョブ型雇用を導入している企業の例はありますか
大手電機メーカーや化粧品メーカーなど、幹部職や専門職から段階的にジョブ型雇用の要素を導入し、対象を拡大している企業があることが各種報道で伝えられている。ただし導入範囲や進捗は企業ごとに異なるため、個別の制度内容は各企業の公表資料で確認するのが確実だ。
Q. メンバーシップ型雇用は今後なくなりますか
完全になくなるとは考えにくい。ジョブ型とメンバーシップ型を組み合わせたハイブリッド型を採用する企業が増えていることからも、日本企業の実態としては両者の併存が続くとみられている。
Q. 資格取得はジョブ型雇用でどのくらい評価されますか
資格そのものよりも、その資格に裏付けられた専門性を実際の職務でどう発揮できるかが評価されやすい。資格取得はあくまで専門性を客観的に示す材料の一つとして位置づけて活用するとよい。
Q. ジョブ型雇用の導入で給与は上がりますか
一概には言えない。職務の価値を基準にした職務給では、専門性の高い職務や市場での需要が高いスキルを担うほど処遇が上がりやすい一方、担当する職務の市場価値が低ければ年功給の場合より処遇が伸びにくいこともある。導入企業ごとの制度設計を確認する必要がある。
Q. ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用、どちらの会社を選ぶべきですか
どちらが優れているという単純な優劣ではなく、自分がどのようなキャリアを望むかで選び方が変わる。専門分野を深めて成果で評価されたい人はジョブ型に近い企業、幅広い経験を積みながら長期的に育成されたい人はメンバーシップ型に近い企業が合いやすいとされる。実際には両者の要素を併せ持つ企業も多いため、募集要項や職務記述書の有無、評価制度の説明を確認して判断するとよい。
まとめ
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、どちらが優れているというより前提とする考え方が異なる仕組みである。ジョブ型は職務を基準にした専門性重視の配置・評価、メンバーシップ型は会社主導で幅広い経験を積める配置・評価という違いがあり、両者を組み合わせたハイブリッド型を採用する企業も増えている。自分のキャリアをどちらの制度で伸ばしやすいかを見極め、実績を職務単位で説明できるように整理しておくこと、そして資格取得やスキル習得の方向性を専門性を軸に考えることが、これからのキャリア戦略において有効といえる。