ホーチミンやハノイの日系企業で、現地採用として働きたい。そう考えたときに最初にぶつかるのが、労働許可証(ワークパーミット)の壁です。ベトナムでは、日本で持っている資格の名前よりも、学位と、その仕事に合った実務経験の年数が審査の中心になります。
この記事では、JETRO(日本貿易振興機構)が公開している政令219/2025/ND-CPの内容をもとに、労働許可証の条件と区分、申請の時期、社会保障協定の状況を整理しました。後半では転職サービスの一例として「べとわーく」の公開情報も確かめています。
- ベトナムで働く外国人は、原則として労働許可証が必要。免除される人は限られる
- 2025年8月7日に政令219/2025/ND-CPが即日施行され、旧政令152/2020/ND-CPの外国人労働者に関する規定は失効した
- 区分は管理者・業務執行者・専門家・技術者の4つ。専門家は大卒以上の学位と2年以上の勤務経歴が目安
- 申請は勤務予定日の60日以内かつ10日以上前に、雇用する企業が行う
- 日本とベトナムの社会保障協定は、2026年6月2日現在まだ政府間交渉中
- 民間サイトの要件説明は古い時点の情報が残っていることがある。必ず現行の政令と照らし合わせる
なお、本記事は外国の法令についての公開情報をまとめたもので、法的助言ではありません。最新の要件はJETROや在ベトナム日本国大使館、雇用主に確認してください。
ベトナムで働くのに必要なもの
日本人がベトナムの会社に雇われて働く場合、基本的に次の2つをそろえることになります。
- 労働許可証(ワークパーミット):働くための許可。ベトナムの所轄機関が発行する
- 一時在留許可証(テンポラリー・レジデンスカード):滞在するための許可。有効期間中はビザの取得が免除される
根拠になっている法令
土台になっているのは、2021年1月1日に施行された改正労働法45/2019/QH14です。これに合わせて政令152/2020/ND-CP(2021年2月15日施行)が定められ、2023年9月18日には一部を改正する政令70/2023/ND-CPが施行されました。
その後、2025年8月7日に政令219/2025/ND-CPが制定され、即日施行されています。JETROによると、これにより政令152/2020/ND-CPのうち、ベトナムで勤務する外国人労働者に関する規定は失効しました。
ネットで見かける解説記事の多くは、政令152や政令70の時代に書かれたものです。年数の要件や手続きの流れが変わっている部分があるため、記事の日付と根拠の政令番号を見る習慣をつけておくと安全です。JETROのページにも制度変更のニュースが随時掲載されています。
労働許可証の取得条件
JETROの説明では、ベトナム国内で就業する外国人は次の4つを満たす必要があります。
- 18歳以上であり、民事行為能力があること
- 専門的・技術的能力と経験を有し、保健大臣が定める健康要件を満たしていること
- 外国またはベトナムの法令に基づき、刑罰を執行されている者、犯罪記録が残存している者、刑事責任を追及されている者ではないこと
- ベトナムの所轄機関から労働許可証の発行を受けたこと(免除対象に当たる場合を除く)
2つめの「専門的・技術的能力と経験」の中身を具体的に決めているのが、次に紹介する4つの区分です。
4つの区分と要件(政令219/2025/ND-CP)
政令219/2025/ND-CPは、ベトナムで働く外国人の職位を4つに分けています。JETROの記載をもとにまとめると、次のとおりです。
| 区分 | 主な要件 |
|---|---|
| 管理者 | 企業法59/2020/QH14に基づく企業の管理者(取締役会の会長、取締役、社長など)、または法令に基づく組織・機関の長や副長 |
| 業務執行者 | 企業の支店・駐在員事務所・事業所の長。または、ひとつの分野の長として直接管理し、就労予定の業務・職位に合った3年以上の勤務経歴を持つ人 |
| 専門家 | 大卒以上(または相当)の学位と、就労予定の業務・職位に合った2年以上の勤務経歴。金融、科学技術、イノベーション、国家デジタルトランスフォーメーションなどの分野では、専攻分野の大卒以上の学位と1年以上の勤務経験 |
| 技術者 | 1年以上の教育を受け、就労予定の業務・職位に合った2年以上の実務経験。または、就労予定の職位に合った3年以上の実務経験 |
現地採用で営業、経理、ITエンジニア、日本語対応の顧客窓口などのポジションに応募する場合、多くは「専門家」か「技術者」のどちらかで申請することになるはずです。どちらに当たるかは、学位の有無と経験年数、そして雇用主が想定している職務内容で変わります。
勤務形態によって添える書面が変わる
政令219/2025/ND-CPでは、どんな形でベトナムに来て働くかも区分されています。現地採用は「労働契約履行」に当たります。駐在員に多い企業内異動の場合は、ベトナム入国の直前まで外国の雇用者に少なくとも12か月連続して採用されていたことを確認する書面が必要とされています。日本の会社から送られる駐在と、現地の会社に直接雇われる現地採用とでは、前提となる書類が異なると覚えておくとよいでしょう。
学位と経験の年数が要件になるということ
資格倉庫の読者の方は、日本の国家資格や検定を積み上げてキャリアを作ってきた人も多いと思います。ところがベトナムの労働許可証では、表のとおり「何の資格を持っているか」ではなく「どの学位を持ち、その職務に合った経験が何年あるか」で区分が決まります。
日本で評価される資格は、仕事の能力を示す材料にはなります。それでも、労働許可の区分を決める直接の物差しにはなっていません。たとえば同じ5年の経理経験でも、大卒以上の学位があれば専門家の要件(学位と2年以上の勤務経歴)に届く一方、学位がなければ技術者の要件で考えることになります。
そのため、応募の前に次のような準備が必要になります。
- 大学の卒業を示す書類(学位の証明)を用意できるか確かめる
- 就労予定の業務に合った経験の年数を、勤務先ごとに書き出しておく
- 経験を証明する書面を以前の勤務先から出してもらえるか見通しを立てる
「業務・職位に適合する」という言い回しにも注意が必要です。経験年数は通算ではなく、応募する仕事に合った経験として数えられます。異業種への転職を考えている場合は、どの経験がカウントされそうか雇用主と早めにすり合わせておきましょう。
労働許可証が免除される場合
JETROのページには免除の対象が多数並んでいます。主なものは次のとおりです。
- 出資額が30億ドン以上の有限責任会社の所有者または出資社員
- 出資額が30億ドン以上の株式会社の取締役会会長または取締役
- 販促活動のために3か月未満滞在する外国人
- 現地の労働者では解決できない技術的な問題に対処するため、3か月未満滞在する外国人
- ベトナム人と婚姻しており、ベトナムで就労中の外国人
- 専門家・管理者・業務執行者・技術者として働き、1月1日から起算する1年間の勤務期間が合計90日未満の外国人
現地の会社に雇われてフルタイムで働く現地採用は、ほとんどの場合これらに当てはまりません。免除の対象であっても、一部の場合を除いて、雇用者が勤務予定日の60日以内かつ10日以上前に免除対象者としての承認を申請する必要があるとされています。
申請の流れと時期
申請書がひとつに統合された
旧政令152/2020/ND-CPでは、雇用者は先に「外国人労働者使用の需要の説明」を報告し、承認を受けてからでなければ労働許可証の申請ができませんでした。政令219/2025/ND-CPではこの2つの手続きが統合され、「外国人労働者使用の需要の説明および労働許可証発給申請書」という1通の書式で申請する形になっています。
提出する時期
企業は、外国人がベトナムで勤務する予定日の60日以内かつ10日以上前に、申請書類を提出しなければなりません。申請するのは雇用する企業です。内定から入社までの日程は、この期間と書類の準備にかかる時間を見込んで組むことになります。
一時在留許可証とビザ
- 一時在留許可証の有効期間は、労働許可証やビザの有効期間と同様に1〜10年。期間中はビザの取得が免除される
- 日本国籍の人は、45日以内の滞在ならビザが免除される(2023年8月15日以前は15日)。パスポートの残存有効期間が入国時点で6か月以上必要
- ビザの滞在目的の変更は原則認められない。観光ビザで入国して労働許可証を取り、そのまま就労目的の一時在留許可証に切り替えることはできない
- 実務上は、現地法人などの保証で商用(DN)ビザを取得して入国し、労働許可証を取得したうえで一時在留許可証を取得する流れが可能とされている
45日以内のビザ免除で現地に入り、面接を受けてそのまま働き始める、という段取りは想定どおりに進まない可能性が高いということです。入国の方法は雇用主の指示に従うのが基本になります。
日本とベトナムの社会保障協定はまだない
厚生労働省の「社会保障協定の締結状況」(2026年6月2日現在)では、ベトナムは政府間交渉中の3か国のひとつとして掲載されており、2026年6月に第3回政府間交渉が実施されたと記されています。発効済み・署名済みの国の欄にベトナムの名前はありません。
社会保障協定がない国で働く場合、年金などの保険料や加入期間の扱いが協定のある国とは異なることがあります。日本の年金をどうするか、ベトナム側でどの保険に入るかは、雇用主や年金事務所などで個別に確かめてください。交渉の進み具合によって状況が変わる可能性もあるため、出発前に最新の資料を見直すことをおすすめします。
転職サービスの例:べとわーく
ベトナムでの現地採用の求人を探す方法のひとつに、現地の人材紹介会社を使うやり方があります。ここでは例として、ベトナム転職をうたう「べとわーく」の公開情報を、2026年10月18日に確認した範囲でまとめます。紹介会社そのものの選び方は転職エージェントの選び方も参考にしてください。
運営会社
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運営会社 | HRNAVI JOINT STOCK COMPANY(日本語表記で「株式会社HRnavi」とするページあり) |
| 法人の形態 | ベトナムの法人(Joint Stock Company) |
| 代表者 | Nguyen Dinh Phuc |
| 設立 | 2007年2月1日 |
| 資本金 | 100,000 USD |
| 拠点 | ホーチミン本社(District 3)、ハノイ支店(Ba Dinh District) |
| 日本の有料職業紹介の許可番号 | サイト内に記載なし(運営はベトナム法人) |
扱う地域と求人の表示件数
トップページでは「べとわーくでは主にベトナムをはじめ、東南アジア各国でのお仕事を紹介をしています」と説明されています。求人の大半はホーチミン・ハノイなどのベトナム現地勤務で、タイ勤務の求人も掲載されていました。
| 勤務地 | 表示されていた求人件数(2026年10月18日時点) |
|---|---|
| ハノイ | 217件 |
| ホーチミン | 188件 |
件数は確認した時点の表示で、日々入れ替わります。
利用の流れ
Q&Aページに書かれている内定までの流れは次のとおりです。
- 気になる求人に応募、または転職サポートを依頼
- キャリアアドバイザーとの面談
- 企業での書類選考
- 面接1回〜数回(オンラインもしくは直接)
- オファーレター(内定通知書)の発行、サイン
- 内定
面談はSkype、LINE、Zoomなどのオンラインで行うとされ、日本にいながら相談を始められます。面接日の調整や企業との交渉は、べとわーく側が代行すると書かれています。問い合わせ後の連絡は、5営業日以内が目安です。
料金について
企業向けページには「完全成功報酬型なので、採用が成立するまで費用は一切かかりません」とあり、紹介手数料の額は問い合わせとされています。一方、求職者側の利用料については、サイト内で明記された箇所を確認できませんでした。サイトには「無料相談」のボタンがありますが、それが転職支援全体の費用を示すものかは読み取れません。求職者として費用がかかるかどうかは、面談の際に直接確かめてください。
Q&Aの労働許可要件は2023年11月時点の情報
べとわーくのQ&Aには労働許可書の要件も載っていますが、ページ内に「上記は2023年11月時点の情報です」という注記があります。政令219/2025/ND-CPの施行より前の情報で、JETROの記載と年数が一致しません。
| 区分 | べとわーくQ&A(2023年11月時点) | JETRO(政令219/2025/ND-CP) |
|---|---|---|
| 区分の数 | 管理職・専門家・技術者の3種類 | 管理者・業務執行者・専門家・技術者の4つ |
| 専門家 | 学士号以上(または同等)と、同分野で3年以上の職務経験。または専門家と認定された証明書を持つ者 | 大卒以上(または相当)と、業務・職位に合った2年以上の勤務経歴。特定分野は専攻分野の大卒以上と1年以上 |
| 技術者 | 技術の訓練1年以上と3年以上の実務経験、または関連する5年以上の実務経験 | 1年以上の教育と2年以上の実務経験、または3年以上の実務経験 |
求人を探す場としてサービスを使う場合でも、要件の判断は現行の政令をもとにした情報で行い、具体的な見込みは雇用主や紹介会社の担当者に確認するのが確実です。
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応募前に確かめること
求人に応募する前、あるいは内定の条件を詰める段階で、次の点を確認しておくと手戻りを減らせます。
- 自分の学位と、応募する仕事に合った経験年数で、4つの区分のどれに当たりそうか
- 雇用主が労働許可証の申請を行うか。申請の時期と、自分が用意する書類は何か
- 入国はどのビザで行うのか(観光ビザからの切り替えは原則できない)
- 給与は何の通貨で支払われるか
- ベトナム側の社会保険の扱いと、日本の年金をどうするか
- 紹介会社を使う場合、求職者に費用がかかるかどうか
- 確認している要件の情報が、どの政令に基づく何年時点のものか
日系企業か、地場企業か、外資系企業かによっても働き方や手続きのサポートは違ってきます。企業のタイプごとの違いは企業タイプ別の転職の考え方で整理しています。
向いている人・向いていない人
向いている人
- 大卒以上の学位があり、応募する職種に合った実務経験を2年以上積んでいる人
- 学位はなくても、同じ分野で3年以上の実務経験がある人
- 入社まで数か月かかる前提で、書類の準備を計画的に進められる人
- 制度の変更をこまめに確かめ、雇用主と相談しながら動ける人
向いていない人
- まず現地に行ってから仕事を探し、すぐ働き始めたいと考えている人
- 応募する仕事に合った経験がまだ浅い人(要件の年数に届かない可能性がある)
- 日本の年金や保険の扱いを確かめずに出発したい人
よくある質問
Q. 日本の資格を持っていれば労働許可証は取りやすくなりますか?
政令219/2025/ND-CPの区分は、学位と、業務・職位に合った経験の年数を軸に定められています。日本の資格名がそのまま要件になっているわけではありません。資格は能力を示す材料として役立つ場面はありますが、区分の判断には学位の証明と経験年数の証明が必要になります。
Q. 大学を出ていなくてもベトナムで働けますか?
技術者の区分には「就労予定の職位に合った業務に従事した少なくとも3年の実務経験」という要件があり、学位がなくても該当する可能性があります。実際にどの区分で申請できるかは、職務内容と経験の中身によるため、雇用主に確認してください。
Q. 観光で入国して、現地で仕事を決めてから働けますか?
JETROによると、ビザの滞在目的の変更は原則として認められず、観光ビザで入国した後に労働許可証を取り、そのまま就労目的の一時在留許可証を取得することはできないとされています。実務上は、雇用する企業の保証で商用(DN)ビザを取得して入国する流れが可能とされています。
Q. 労働許可証の申請は自分でするのですか?
申請書類を提出するのは企業です。勤務予定日の60日以内かつ10日以上前に提出することになっています。本人は学位や経験を証明する書類の準備などで協力することになります。
Q. 日本の年金はどうなりますか?
2026年6月2日現在、日本とベトナムの社会保障協定は政府間交渉中で、発効していません。日本の年金をどうするかは、出発前に年金事務所などで個別に確かめてください。
Q. べとわーくは求職者も無料で使えますか?
企業側は完全成功報酬型と書かれていますが、求職者側の利用料はサイト内で明記された箇所を確認できませんでした。費用の有無は面談の際に直接確認してください。
Q. ネットで見た要件と、この記事の年数が違うのはなぜですか?
2025年8月7日に政令219/2025/ND-CPが施行され、旧政令152/2020/ND-CPの外国人労働者に関する規定は失効しました。それ以前に書かれた記事やページには、古い年数が残っていることがあります。情報の時点と根拠の政令を確かめるようにしてください。
まとめ
ベトナムで現地採用として働くには、原則として労働許可証と一時在留許可証が必要です。2025年8月7日施行の政令219/2025/ND-CPでは、管理者・業務執行者・専門家・技術者の4区分ごとに、学位と業務に合った経験年数が要件として定められています。日本で取った資格よりも、学位の証明と経験の証明をそろえられるかが出発点になります。
申請は雇用する企業が勤務予定日の60日以内かつ10日以上前に行い、観光ビザからの切り替えは原則できません。社会保障協定はまだ交渉中のため、年金の扱いも事前に確かめておきたいところです。紹介会社を使う場合は、求職者側の費用と、要件の説明がいつ時点の情報かを確認してから進めましょう。
出典
- 日本貿易振興機構(JETRO)「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(ベトナム)」 https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/invest_05.html (確認日:2026年10月18日)
- 厚生労働省「社会保障協定の締結状況」(2026年6月2日現在) https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/shakaihoshou-gaiyou02.pdf (確認日:2026年10月18日)
- べとわーく(HRNAVI JOINT STOCK COMPANY)トップページ https://www.vietwork.jp/ (確認日:2026年10月18日)
- べとわーく「Q&A」 https://www.vietwork.jp/qa/ (確認日:2026年10月18日)
- べとわーく「求人中の企業様へ」 https://www.vietwork.jp/for-employers/ (確認日:2026年10月18日)