心理職を目指すときに必ずといっていいほど比較の対象になるのが、臨床心理士と公認心理師の二つの資格だ。名称が似ているうえに活動領域も重なる部分が多く、混同されやすい。しかし資格としての法的な位置づけ、養成課程、試験の内容には明確な違いがある。この記事では両資格の定義から受験資格のルート、業務範囲の違い、そして進路を考えるうえでの実践的なポイントまでをまとめて整理する。すでにどちらかの資格取得を検討している人にも、これから心理職を志す人にも参考になるはずだ。
臨床心理士と公認心理師の基本的な定義
臨床心理士は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定する資格である。文部科学省の後援を受けているものの国家資格ではなく、公的資格または民間資格に分類される。1988年に認定が始まって以来、長年にわたり心理職の代表的な資格として社会に定着してきた経緯がある。
一方の公認心理師は、2015年に成立した公認心理師法を根拠とする日本で初めての心理職の国家資格である。所管は文部科学省と厚生労働省の共管で、指定試験機関・指定登録機関として一般財団法人日本心理研修センターが試験と登録の実務を担っている。医療、福祉、教育、司法、産業といった幅広い分野で心理的支援に関わる人を対象とした資格として、2017年の法全面施行以降に本格的に運用が始まった。
特徴を分解して比較する
法的な位置づけの違い
もっとも根本的な違いは資格の性格にある。公認心理師は名称独占資格であり、資格を持たない者が「心理師」の名称を使うことは公認心理師法第44条で禁止されている。ただし業務独占ではないため、心理相談などの行為自体は資格がなくても行うことができる。臨床心理士には法律上の名称使用制限は存在せず、あくまで認定協会が定める民間の認定資格という位置づけになる。
養成課程と受験資格の違い
公認心理師の受験資格には複数のルートが用意されている。基本となるルートAは、大学で心理学に関する所定の科目を履修して学士を取得したうえで、大学院でも心理学系の科目を修めて修士号を得るという経路で、学部4年と大学院2年を合わせておおむね6年の養成期間を想定している。実務経験を積むルートBや、大臣が同等以上と認めるルートCも設けられているが、いずれのルートも大学レベルからの計画的な学修が前提になる。
臨床心理士は2007年度以降、受験資格が指定大学院修了者を中心とする形に整理された。第1種指定大学院修了者、実務経験を要件とする第2種指定大学院修了者、専門職大学院修了者、あるいは医師免許取得後に一定の心理臨床経験を積んだ者などが対象で、大学院修了を前提とする点は公認心理師と共通している。
試験内容の違い
公認心理師試験は多肢選択式を中心とした筆記試験によって実施される。臨床心理士試験は一次試験(多肢選択方式の筆記試験と論文記述試験)と二次試験(口述面接試験)の二段階で構成されており、面接による評価が含まれる点が特徴だ。合格率は両資格とも実施団体が毎回公表しており、直近は公認心理師が60.0%(第9回)、臨床心理士が66.7%(令和7年度)と近い水準にある。
公表されている合格率の推移
公認心理師試験は一般財団法人公認心理師試験研修センター(第5回の発表資料では一般財団法人日本心理研修センター名義)が、臨床心理士試験は日本臨床心理士資格認定協会が結果を公表している。
| 公認心理師 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 第4回(2021年9月) | 21,055人 | 12,329人 | 58.6% |
| 第5回(2022年7月) | 33,296人 | 16,084人 | 48.3% |
| 第6回(2023年5月) | 2,020人 | 1,491人 | 73.8% |
| 第7回(2024年3月) | 2,089人 | 1,592人 | 76.2% |
| 第8回(2025年3月) | 2,174人 | 1,454人 | 66.9% |
| 第9回(2026年3月) | 2,400人 | 1,441人 | 60.0% |
第5回までは受験者が2万〜3万人いたが、第6回からは約2千人に減った。第9回の受験区分別では、大学と大学院で所定の科目を修めた区分Aが1,937人中1,311人(67.7%)の合格だったのに対し、特例措置の区分D1は155人中30人(19.4%)、区分Eは214人中66人(30.8%)と低い。合格基準は第9回で230点満点中136点以上(総得点の60%程度以上を基準に難易度で補正)だった。
| 臨床心理士 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 1,804人 | 1,179人 | 65.4% |
| 令和4年度 | 1,810人 | 1,173人 | 64.8% |
| 令和5年度 | 1,705人 | 1,134人 | 66.5% |
| 令和6年度 | 1,816人 | 1,200人 | 66.1% |
| 令和7年度 | 1,809人 | 1,206人 | 66.7% |
臨床心理士は毎年1,800人前後が受験して3分の2ほどが合格しており、合格者の累計は令和7年度で44,289人になった。受験者数が最も多かったのは平成17年度の2,905人である。
資格更新の有無
臨床心理士には5年ごとの資格更新制度があり、研修参加などによるポイント取得が必要とされる。公認心理師にはこうした更新試験の制度はなく、生涯にわたり資質向上に努める努力義務が法律上定められているにとどまる。この違いは、資格取得後の継続的な負担を考えるうえで見落とされやすいポイントである。
受験資格ルートと資格区分の比較表
| 項目 | 公認心理師 | 臨床心理士 |
|---|---|---|
| 資格区分 | 国家資格 | 公的資格(民間資格) |
| 根拠 | 公認心理師法(2015年公布) | 日本臨床心理士資格認定協会の認定基準 |
| 所管・実施団体 | 文部科学省・厚生労働省(共管)、日本心理研修センター | 日本臨床心理士資格認定協会(文部科学省後援) |
| 主な養成ルート | 大学(学士)+大学院(修士)など複数ルート | 指定大学院修了などが中心 |
| 試験形式 | 筆記試験(多肢選択式中心) | 一次筆記試験+二次口述面接試験 |
| 名称使用制限 | あり(名称独占) | 法律上の制限なし |
| 資格更新 | 更新試験なし(努力義務) | 5年ごとの更新制度あり |
他の心理系資格との違い
心理職に関連する資格には、精神保健福祉士や産業カウンセラーなど他にも複数の選択肢がある。精神保健福祉士は精神障害者の福祉支援に特化した国家資格であり、心理的アセスメントよりも生活支援や社会復帰支援に重点が置かれる点で公認心理師・臨床心理士とは役割が異なる。産業カウンセラーは民間資格で、主に企業内でのメンタルヘルス支援やキャリア相談を担う実務者向けの位置づけになっている。
- 医療機関の心理職採用では、公認心理師の資格を業務の根拠として重視する場面が増えている
- 臨床心理士は民間資格でありながら、心理職としての実績や信頼の面で評価される場面が今も残っている
- スクールカウンセラーなど教育分野の求人では、両資格を併せ持つことが望ましいとされるケースがある
資格を選ぶときの実践的なコツ
これから心理職を目指すなら、次の点を軸に検討するとよい。
- 将来的にどの分野(医療・教育・福祉・産業・司法)で働きたいかを先に定め、その分野での資格の扱われ方を求人情報などで確認する
- 大学院進学が前提になるため、進学先が公認心理師の受験資格に対応したカリキュラムを持っているかを事前に調べる
- 両資格を同時に取得できる大学院も多いため、片方に絞らず併願を視野に入れて情報を集める
すでに臨床心理士の資格を持っている人が公認心理師の取得を検討する場合、自分がどの受験区分に当たるかを先に確かめたい。法附則にもとづく特例の区分(D1・D2・E・F)は第9回でも合計417人が受験しており、第10回の受験資格の案内にも掲載されているが、対象は大学院の修了時期などで細かく限定されている。該当しない場合は、大学・大学院で所定の科目を修める正規のルート(区分A・B)を満たす必要がある。
Q. 給与や待遇に資格の違いは影響しますか
職場によって扱いが異なるため一概にはいえないが、医療機関を中心に公認心理師の資格を採用要件として明記する求人が増えてきている。臨床心理士のみを要件とする求人も依然として多く、応募を検討する分野の傾向を事前に確認しておくことが望ましい。
よくある質問
Q. 公認心理師と臨床心理士はどちらが上位の資格ですか
上下関係があるわけではない。公認心理師は国家資格、臨床心理士は公的資格という制度上の違いはあるが、業務内容が重なる部分も多く、実務では両方を併せ持つ人も少なくない。
Q. 両方の資格を同時に取得することはできますか
指定された大学院で所定の科目を履修すれば、卒業・修了時に両方の受験資格を得られる課程も存在する。進学先を選ぶ際に対応状況を確認するとよい。
Q. 社会人からでも目指せますか
大学院での学び直しが基本ルートになるため、社会人からでも進学すれば目指すことができる。ただし学部段階での指定科目の履修状況によっては、必要な科目を別途履修しなければならない場合がある。
Q. 公認心理師になるとどんな仕事ができますか
医療機関での心理検査やカウンセリング補助、学校でのスクールカウンセリング、福祉施設での相談支援、企業でのメンタルヘルス対応など、活動領域は幅広い。名称独占資格であるため、資格を持たない人は「心理師」を名乗ることができない。
Q. 臨床心理士の資格は今後なくなるのですか
公認心理師制度が始まった後も、臨床心理士の認定・更新は継続して行われている。両制度が並行して運用されている状態であり、廃止時期などは公式に示されていない。
Q. 受験資格を得るまでにどのくらいの期間がかかりますか
一般的な想定では、大学4年間と大学院2年間を合わせておおむね6年程度が目安になる。ルートや個人の状況によって前後する。
Q. 独学で合格を目指すことはできますか
両資格とも指定の教育課程を修了することが受験資格の前提になっているため、資格試験そのものを独学だけで突破するという性質のものではない。大学・大学院での学修が不可欠である。
まとめ
臨床心理士と公認心理師は、名称の類似から混同されがちだが、国家資格か公的資格かという法的な位置づけ、受験資格のルート、試験形式、資格更新の有無など、制度としては別物である。心理職として長く働くことを考えるなら、どちらか一方に絞るのではなく、進学先の大学院が両方の受験資格に対応しているかを確認しながら、自分が働きたい分野での評価のされ方も踏まえて進路を検討するとよい。
この記事の資格情報は、日本臨床心理士資格認定協会の「受験資格」のページ(http://fjcbcp.or.jp/rinshou/juken/)と、日本心理研修センターの公認心理師試験のページ(https://www.jccpp.or.jp/shiken/)を2026年9月26日に確認して整理しました。臨床心理士の主な受験資格(指定大学院1種・2種、専門職大学院など)と5年ごとの更新制度は協会の案内と一致しています。合格率は公認心理師試験研修センターの第4回〜第9回の「合格発表について」と第9回の「合格者の内訳」「合格基準及び正答」、日本臨床心理士資格認定協会の「臨床心理士資格取得者の推移」、第10回の日程は同センターの「第10回公認心理師試験概要・スケジュール」で2026年10月4日に確認しました。公認心理師の受験資格ルートの区分ごとの詳細、臨床心理士の受験資格が2007年度に整理されたという時期は、公式で確認できませんでした。受験前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。