高齢化が進むなかで、自宅で暮らし続けるための住まいの整え方を相談できる専門家の需要が高まっています。福祉住環境コーディネーターは、福祉と建築の両方の知識を持ち、住宅改修や福祉用具選びを橋渡しする民間資格です。2025年度の合格率は2級23.0%、1級19.7%で、入門の3級でも41.4%でした。この記事では、実施団体である東京商工会議所の公開情報と厚生労働省の資料をもとに、資格の概要、級別の違いと合格率、受験料と日程、受験方式の決まり、できること、他の福祉・住宅系資格との違い、働き方までを整理します。
福祉住環境コーディネーターとは
福祉住環境コーディネーターは、東京商工会議所が実施する検定試験に合格することで名乗れる民間資格です。高齢者や障害のある人が自宅で安全に暮らせるよう、身体状況に合わせた住宅改修や福祉用具の選定についてアドバイスする専門知識を認定するものです。出題範囲は医療・福祉・建築にまたがり、単に建築の知識だけでも、介護の知識だけでも対応できない領域を体系的に学ぶ点が特徴です。
試験には受験資格の制限がなく、学歴・年齢・性別・国籍を問わず誰でも受験できます。介護や建築の実務経験がない人が、これから福祉住環境の知識を身につけるための入り口としても利用されています。
東京商工会議所の試験概要によると、2025年12月時点で累計受験者数は178万人にのぼり、約70万人の福祉住環境コーディネーターが誕生しています。公式の紹介では、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員の受験者が増えているとも説明されています。
級別の違い(3級・2級・1級)
福祉住環境コーディネーター検定試験は3級・2級・1級の3段階に分かれており、級によって試験方式や求められる知識のレベルが異なります。3級は福祉と住環境の基礎知識を得たい学生や一般の人、2級は建築士やケアマネジャーなど専門職が実務で使う知識が中心です。1級は、個々の住まいにとどまらず日常生活圏全般や、ケアハウス・グループホームなどの住関連施設までを視野に入れた住環境整備に関わる知識・技能が求められます。
| 級 | 想定される受験者像 | 試験方式 | 試験時間 | 出題形式 |
|---|---|---|---|---|
| 3級 | 看護・介護や建築を学ぶ学生、自身や家族の介護、自宅の新築・リフォームのために知識を得たい人など | IBT方式(自宅等)またはCBT方式(テストセンター) | 90分 | 多肢選択式 |
| 2級 | 建築士、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、介護福祉士、作業療法士、理学療法士、住宅メーカー・不動産・福祉用具の営業担当者 | IBT方式またはCBT方式 | 90分 | 多肢選択式 |
| 1級 | 日常生活圏全般や社会福祉施設(ケアハウス・グループホームなどの住関連施設)まで視野に入れた住環境整備に関わる人 | CBT方式による全国統一試験 | 前半90分+後半90分 | 前半は多肢選択式、後半は記述式(一部に筆記で解答する問題あり) |
合格基準は3級・2級が100点満点中70点以上、1級は前半・後半それぞれ100点満点中70点以上とされています。1級はテストセンターのパソコンで受験する統一試験ですが、1級試験案内には一部筆記による回答を求める問題が出題されると書かれています。持ち込める筆記用具はシャープペンシル・鉛筆と消しゴムのみで、下書き用紙は会場で配布・回収されます。筆記の問題が前半・後半のどちらで出るかは、公式の試験案内では確認できませんでした。受験料や実施日程は年度によって変わるため、受験前に東京商工会議所検定サイトの最新の実施要項を必ず確認してください。
級別の合格率
東京商工会議所が公表している受験者データは次のとおりです(合格率は実受験者数に対する値と一致します)。「受験者数」は公式データの表記どおりで、実際に試験を受けた人数は「実受験者数」の列です。
| 回 | 級 | 受験者数 | 実受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025年度 第54回 | 2級 | 6,491人 | 6,025人 | 1,464人 | 24.3% |
| 2025年度 第54回 | 3級 | 2,127人 | 1,937人 | 879人 | 45.4% |
| 2025年度 第55回 | 1級 | 231人 | 183人 | 36人 | 19.7% |
| 2025年度 第55回 | 2級 | 8,093人 | 7,355人 | 1,614人 | 21.9% |
| 2025年度 第55回 | 3級 | 2,952人 | 2,695人 | 1,040人 | 38.6% |
| 2026年度 第56回 | 2級 | 6,993人 | 6,455人 | 1,551人 | 24.0% |
| 2026年度 第56回 | 3級 | 1,862人 | 1,717人 | 906人 | 52.8% |
2025年度1年分を級別にまとめると、次のようになります。
| 級 | 受験者数 | 実受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 2級 | 14,584人 | 13,380人 | 3,078人 | 23.0% |
| 3級 | 5,079人 | 4,632人 | 1,919人 | 41.4% |
| 1級 | 231人 | 183人 | 36人 | 19.7% |
受験者の多くは2級で、2025年度は2級だけで13,380人が受験し、3級(4,632人)の約3倍でした(当サイト計算)。その2級の合格率は2割強にとどまります。3級も回によって38.6%から52.8%まで動いており、70点の基準は決して低くありません。なお、公式のデータページで確認できたのは2025年度・2026年度分のみで、2024年度以前の長期の推移は確認できませんでした。
受験方式と受験規約のポイント
2級・3級はIBTとCBTのどちらで受けるかによって、受験できる時間帯や準備するものが変わります。1級は受け方の決まりが2級・3級より厳しく設定されています。
| 区分 | 受験場所 | 開始時間 | 主な決まり |
|---|---|---|---|
| IBT方式(2級・3級) | 自宅・会社など | (1)10:00〜11:45、(2)13:00〜15:45、(3)17:00〜19:00まで、各回15分ごと | 申込は先着順。受験に使う機材は受験者が手配 |
| CBT方式(2級・3級) | テストセンター | 10:00〜19:00の間で会場ごとに設定 | 申込時に開始時間を選択、先着順 |
| 1級(CBT統一試験) | テストセンター | 統一試験日に実施 | 前半と後半の両方を受験する必要があり、一方のみの受験は不可。日時の変更はできず、遅刻は欠席扱い |
CBT方式で受験上の配慮を希望する場合は、申込の3営業日前までに申請が必要です。2級からの受験や、2級と3級の併願もできます。1級の出題は公式テキスト(改訂7版)に準拠し、法令や制度については最新情報を理解していることが前提とされています。
合格後に名刺などへ記載するときは、合格した級を「福祉住環境コーディネーター」の前後どちらかに記入します。複数の級に合格している場合は、併記しても上位級のみを書いても構いません。
できること・仕事内容
福祉住環境コーディネーターが担うのは、大きく分けて住宅改修の相談、福祉用具の選定アドバイス、そして介護保険の住宅改修費支給制度に関わる手続き支援の3つです。
厚生労働省の資料では、対象となる住宅改修の種類として次のものが挙げられています。
- 手すりの取付け
- 段差の解消
- 床又は通路面の材料の変更
- 引き戸等への扉の取替え
- 洋式便器等への便器の取替え
- 付帯工事
住宅改修が必要な理由書と作成者
住宅改修費の支給を申請する際は、なぜその改修が必要かを説明する「住宅改修が必要な理由書」を提出書類として添えます。理由書には、本人の心身の状況や日常生活上の動線、住宅の状況、福祉用具の導入状況などを総合的に勘案したうえで、必要な住宅改修の工事種別とその選定理由を記載します。
理由書を作成する人について、厚生労働省の通知(老企第42号)は、基本的には居宅サービス計画等を作成する介護支援専門員(ケアマネジャー)と地域包括支援センターの担当職員とし、市町村が行う福祉用具・住宅改修支援事業等として住宅改修の相談・助言を行っている福祉、保健・医療又は建築の専門家も含まれるとしています。厚生労働省の住宅改修の概要資料では、作成者の例として「介護支援専門員、地域包括支援センター担当職員、作業療法士、福祉住環境コーディネーター検定試験2級以上その他これに準ずる資格等を有する者」が示されています。この例示は2級以上と書かれており、3級は例示に入っていません。
ケアマネジャーなどが理由書を作成する業務は居宅介護支援等の一環とされているため、被保険者から別に費用を受け取ることはできません。
他の福祉・住宅系資格との違い
福祉と住宅にまたがる資格は複数あり、それぞれ専門とする範囲が異なります。福祉住環境コーディネーターの独自性は、どちらか一方に偏らず「福祉の視点で住宅を、住宅の視点で福祉を」考えられる橋渡し役である点です。
| 資格 | 専門の軸 | 福祉住環境コーディネーターとの関係 |
|---|---|---|
| ケアマネジャー(介護支援専門員) | ケアプラン作成、サービス全体の調整 | 理由書作成者として重なる部分があるが、ケアマネジャーは受験に実務経験が必須。福祉住環境コーディネーターは住環境整備の専門知識をケアマネ業務に補う位置づけ |
| 建築士 | 建物の設計・工事全般の国家資格 | 建築士は構造や法規まで幅広く扱うのに対し、福祉住環境コーディネーターは高齢者・障害者の身体状況に応じた改修提案に特化 |
| ビル管理士(建築物環境衛生管理技術者) | 大規模建築物の環境衛生管理 | 対象は個人の住宅ではなくビル・施設全体の衛生環境。福祉住環境コーディネーターとは扱う建物の規模と目的が異なる |
また、介護資格のキャリアパスの中では、福祉住環境コーディネーターは現場の身体介助のスキルとは別軸で、住環境の調整力を積み上げる資格として位置づけられます。介護福祉士やケアマネジャーとしてのキャリアに、住環境の知識を掛け合わせる形で取得する人も少なくありません。
働く場所・キャリア
福祉住環境コーディネーターの知識は、単独の職種としてよりも、既存の仕事に付加価値として組み合わせて活かされることが多い資格です。
- 工務店・リフォーム会社:高齢者向けの改修提案、手すりや段差解消の具体的な工事プランの提案
- 福祉用具専門店・福祉用具貸与事業所:車いすや介護用ベッドなど福祉用具の選定アドバイス
- 住宅メーカー・不動産会社:バリアフリー住宅の企画・販売サポート
- ケアマネジャー・地域包括支援センター:もともと理由書を作成する立場にあり、住環境の知識を改修内容の検討や助言に活かす
- 作業療法士・理学療法士:退院前の住宅評価や改修アドバイスに専門知識を加える
ケアマネジャーは、この資格を追加しなくても通知上は理由書を作成できる立場です。一方、建築や福祉用具など、ケアマネジャー以外の福祉・建築の専門職にとっては、2級以上が厚生労働省資料で理由書作成者の例示に挙げられていることが、取得の実務上の意味になります。
よくある質問
受験資格に制限はありますか。
ありません。学歴・年齢・性別・国籍による制限はなく、実務経験がなくても3級・2級・1級のいずれも受験できます。1級も2級の合否に関わらず受験できます。
2級からいきなり受験しても大丈夫ですか。
2級の受験に3級の合格は必須ではなく、2級と3級の併願もできます。ただし出題範囲が広がるため、基礎から学びたい場合は3級のテキストから取り組む方法もあります。
2級と3級はどこで受験できますか。
自宅や会社のパソコンで受験するIBT方式と、全国のテストセンターで受験するCBT方式のいずれかを選べます。IBTは10時台・13〜15時台・17〜19時の枠から15分ごとに、CBTは会場ごとに設定された10時〜19時の間の時間から、申込時に先着順で選びます。
1級はどのような試験ですか。
全国のテストセンターで実施されるCBT方式の統一試験です。前半は多肢選択式、後半は記述式で、試験案内には一部筆記による回答を求める問題が出題されると書かれています。筆記用具はシャープペンシル・鉛筆と消しゴムのみ持ち込めます。
1級は前半だけ受験することもできますか。
できません。受験規約では、前半と後半の両方を受験する必要があるとされています。日時の変更もできず、遅刻した場合は欠席扱いになります。
住宅改修費の理由書は誰でも作成できますか。
厚生労働省の通知では、基本的にケアマネジャー(介護支援専門員)と地域包括支援センターの担当職員が作成し、市町村の住宅改修支援事業などで相談・助言を行う福祉、保健・医療、建築の専門家も含まれるとされています。厚生労働省の資料では作成者の例として、介護支援専門員、地域包括支援センター担当職員、作業療法士、福祉住環境コーディネーター検定試験2級以上その他これに準ずる資格等を有する者が挙げられています。この例示は2級以上と書かれており、3級は入っていません。
この資格だけで独立開業できますか。
福祉住環境コーディネーター単独で完結する業務は限られており、多くは工務店やケアマネ業務など既存の仕事に知識を組み合わせて活かす形で用いられています。
建築士や福祉用具専門相談員とは別の資格ですか。
はい、別の資格です。建築士は建物の設計・工事に関する国家資格、福祉用具専門相談員は福祉用具の貸与・販売事業所に関わる別の資格で、いずれも取得要件や扱う業務範囲が異なります。
資格の有効期限はありますか。
今回確認した東京商工会議所の公式ページでは、合格の有効期限や更新制度についての記載は確認できませんでした。出題内容の元になる介護保険制度などは改正されることがあり、1級も法令・制度は最新情報の理解が前提とされているため、実務で使う際は最新の制度を確認する姿勢が必要です。
名刺に書くときはどう表記しますか。
合格した級を「福祉住環境コーディネーター」の前後どちらかに記入します。複数の級に合格している場合は、併記しても上位級のみを書いても構いません。
受験料はいくらですか。
2026年度は、IBT方式で2級7,700円、3級5,500円(税込)です。テストセンターで受けるCBT方式は、このほかにCBT利用料2,200円がかかります。1級は9,900円とCBT利用料2,200円で、合計12,100円です。年度によって改定される場合があるため、申込み前に東京商工会議所検定サイトの最新情報を確認してください。
まとめ
福祉住環境コーディネーターは、東京商工会議所が実施する検定試験に合格することで得られる、福祉と建築の両方にまたがる民間資格です。3級は基礎知識、2級は専門職の実務での活用、1級は日常生活圏全般や住関連施設まで視野に入れた住環境整備を想定した内容になっています。2級以上は、厚生労働省の資料で介護保険の住宅改修費支給制度における「理由書」の作成者の例示に挙げられており、ケアマネジャー以外の福祉・建築の専門職にとって実務上の意味を持ちます。累計受験者数は178万人にのぼり、ケアマネジャーや建築士など既存の専門職に知識を掛け合わせる形で取得されることが多く、住宅改修の相談から福祉用具の提案まで、福祉と住宅の間をつなぐ役割を担う資格といえます。
- S1 東京商工会議所「福祉住環境コーディネーター検定試験 試験要項」https://kentei.tokyo-cci.or.jp/fukushi/exam-info/
- S2 東京商工会議所「福祉住環境コーディネーター検定試験 試験結果データ」https://kentei.tokyo-cci.or.jp/fukushi/about/data.html
- S3 東京商工会議所「お申込み・受験規約」https://kentei.tokyo-cci.or.jp/fukushi/exam-info/entry.html
- S5 東京商工会議所「福祉住環境コーディネーター検定試験とは」https://kentei.tokyo-cci.or.jp/fukushi/about/
- S7 東京商工会議所「1級試験案内(PDF)」https://kentei.tokyo-cci.or.jp/fukushi/pdf/fukushi-1Q.pdf
- S8 東京商工会議所「試験概要(PDF)」https://kentei.tokyo-cci.or.jp/fukushi/pdf/fukushi-gaiyou.pdf
- S9 厚生労働省 老企第42号(平成12年3月8日)「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4385&dataType=1&pageNo=1
- S10 厚生労働省「福祉用具・住宅改修(住宅改修の概要)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001016043.pdf
合格率の級別比較(2級が3級の約3倍)は公式データをもとに当サイトで計算したものです。合格の有効期限・更新制度の有無、3級を理由書作成者から明示的に除外する記述、2024年度以前の長期の合格率推移、1級の筆記問題が前半・後半のどちらで出題されるかは、公式ページでは確認できませんでした。受験や申請の前に必ず公式サイトと市区町村の窓口で最新情報をご確認ください。