「樹木医」という肩書きを聞くと、樹木のお医者さんというイメージは湧いても、国家資格なのか民間資格なのか、どうすればなれるのかまで知っている人は少ないのではないでしょうか。この記事では、一般財団法人日本緑化センターの公式情報にもとづいて、樹木医の資格としての位置づけ、取得までの流れ、難易度、費用、似た名前の資格との違いを整理します。
先に結論から言うと、樹木医は国家資格ではなく、日本緑化センターが認定する名称独占の民間資格です。ただし取得のハードルは低くありません。応募できるのは業務経歴5年以上(樹木医補は1年以上)の実務者に限られ、第1次審査(選抜試験)で約100名まで絞り込まれたのち、6日間の実習を含む第2次審査(樹木医研修)を経てようやく認定されます。
樹木医とは、何をする専門家か
樹木医とは、樹木の調査・研究、診断・治療、公園緑地の計画・設計・設計監理などを通して、樹木の保護・育成・管理や、落枝・倒木による人的・物的被害の抑制、後継樹の育成、樹木に関する知識の普及・指導などを行う専門家のことです。神社仏閣の巨樹・古木、街路樹、公園樹など、病虫害や環境悪化で弱った樹木を診断し、樹勢回復の処置を行うのが代表的な仕事にあたります。
資格の位置づけ 国家資格ではなく民間資格
樹木医は国が実施する国家資格ではありません。実施しているのは一般財団法人日本緑化センターで、樹木医資格審査・証明事業は平成3年度に「樹木医制度」が発足して以来、わが国唯一の樹木医資格認定機関としてこの法人が担ってきました。
興味深いのは制度の来歴です。この事業は一般から高い評価を受けた結果、平成8年度からは民間技能審査事業認定制度の適用を受け、社会的に奨励すべき事業として農林水産大臣の認定を受けていました。ところがその後、国の公的規制緩和の統一的な方針にもとづき、民間技能審査事業認定制度そのものが平成12年度末で廃止されています。つまり樹木医は、一度は農林水産大臣のお墨付きを得た資格でありながら、制度側の都合で公的な認定の後ろ盾を失い、現在は日本緑化センターの公益事業(緑化専門技術者養成認定事業)として実施されている、という少し珍しい経緯をたどった資格です。
「樹木医」という名称自体は商標登録(登録第3293778号)されており、日本緑化センターの資格審査に合格し登録した人だけが名乗ることができます。
樹木医になるまでの流れ
樹木医の認定までは、公募から数えるとおおむね半年以上かかります。日本緑化センターが公表している令和8年度の日程を例に、流れを表にまとめます。
| 段階 | 内容 | 令和8年度の時期(例) |
|---|---|---|
| 公募 | 受験申込の受付 | 5月1日〜6月15日(締切日消印有効) |
| 第1次審査(選抜試験) | 択一式35問(90分)+論述式3問(90分)、業績審査もあわせて実施。約100名を選抜 | 7月12日(日)、全国6会場 |
| 合格発表 | ホームページに受験番号を掲載、合格者に通知 | 8月頃 |
| 第2次審査(樹木医研修) | 講義のWeb配信(2週間程度)+茨城県つくば市での実習6日間。研修科目16科目の筆記試験、樹種識別の適性試験を実施 | 第1期9月28日〜10月3日、第2期10月12日〜10月17日 |
| 面接・資格審査 | 研修最終日に面接。筆記・適性・面接の結果を樹木医制度審議会が総合評価 | 研修期間中〜11月中旬 |
| 登録・認定証交付 | 合格通知後、登録申請書を提出 | 12月1日付けで登録 |
試験会場は北海道(札幌)、仙台、東京(世田谷)、名古屋、大阪、福岡の6か所に設けられており、全国どこからでも受験しやすい体制になっています。第2次審査の実習は茨城県つくば市に固定されており、つくば市内の造園会社圃場や都市公園、国立科学博物館筑波実験植物園なども実習先として使われます。
応募資格 実務経験5年(樹木医補は1年)の壁
樹木医資格認定試験に応募できるのは、次のいずれかに該当する人です。
- 樹木の調査・研究、診断・治療、保護・育成・管理、公園緑地の計画・設計・設計監理、緑化樹木や果樹の生産等に関する業務経歴が5年以上の方(令和5年度より、これまでの7年から5年に短縮)
- 樹木医補の認定を受けている場合は、認定後の業務経歴が1年以上の方
樹木医補との違い
樹木医補は平成16年4月に新設された制度で、樹木学や病虫害学などの基礎知識を大学等で修得した学生に、樹木医資格取得への門戸を早く開くための仕組みです。樹木医補資格養成機関として登録を受けた大学・専門学校で、講義科目6分野以上14単位以上、実験・実習科目4分野4科目以上を履修し、申請して審査に通ると認定されます。認定校は令和6年11月時点で大学(短期大学を含む)44校、専門学校19校です。
| 比較項目 | 樹木医 | 樹木医補 |
|---|---|---|
| 取得方法 | 選抜試験+樹木医研修+資格審査 | 養成機関(大学等)での所定単位の履修 |
| 必要な実務経験 | 単独で受験する場合は5年以上 | 特になし(在学中に取得可能) |
| 樹木医試験への応募条件 | - | 認定後の実務経験1年以上で応募可 |
| 単独で名乗れる業務 | 樹木医としての診断・治療業務全般 | 樹木医の名称は名乗れない(あくまで樹木医への準備段階) |
つまり樹木医補は資格として独立して業務を行うためのものではなく、樹木医になるまでの実務経験年数を5年から1年に短縮するための、いわば早道の制度と考えるとわかりやすいでしょう。
難易度 選抜試験の倍率と研修の内容
第1次審査(選抜試験)は、樹木医が備えるべき一般教養(倫理を含む)や樹木医研修科目に関する専門分野、さらに高校生物レベルの知識まで幅広く出題される択一式35問と、総合的な知識・技術・文章力を問う論述式3問で構成されます。この審査で約100名まで絞り込まれます(令和8年度の受験の手引きによる)。択一式の正答率が5割に満たないと、論述式の答案は原則として採点されません。
第2次審査の樹木医研修では、樹木の分類・生理・生態、土壌診断、病害・虫害・腐朽病害の診断と防除、大気汚染害・気象害への対策、後継樹木の育成、幹の外科技術、樹木の移植法、植栽基盤の調査・判定など16科目を講義と実習で学びます。研修期間中には16科目の筆記試験に加え、緑化樹木を中心とした樹種の識別に関する適性試験、研修最終日の面接試験まで課されるため、実務経験があっても一夜漬けで乗り切れる内容ではありません。
最終的に樹木医として登録された人は、令和3年が96名、令和5年が100名、令和7年が94名で、累計の登録者は3,238名です。2019年度以降に認定された人には登録の更新が義務づけられています。また、樹木医資格は2025年2月14日付で国土交通省登録技術者資格(公園施設(樹木)の点検・診断)に登録されました。
費用の目安
| 項目 | 金額(税込) |
|---|---|
| 受験手数料(樹木医補の認定を受けていない方) | 19,000円 |
| 受験手数料(樹木医補の認定を受けている方) | 16,000円 |
| 樹木医研修の研修費 | 120,000円 |
| 参考書「最新・樹木医の手引き 改訂4版」(未所持者のみ) | 8,500円+税 |
これに加えて、研修会場(茨城県つくば市)までの往復交通費や宿泊費が別途かかります。受験地から遠方の場合は、6日間の実習期間中の宿泊費も見込んでおく必要があります。なお「最新・樹木医の手引き」改訂5版は2026年11月以降の発刊が予定されており、令和8年度の研修は改訂4版がテキストとして使われます。
登録更新 5年ごとにCPD100単位
樹木医の対外的な信頼性を確保するため、令和元年認定の樹木医から5年ごとの登録更新が義務化されました。更新の条件は、樹木医CPD(継続研鑽制度)100単位以上を5年間で取得することです。取得しっぱなしで終わる資格ではなく、認定後も知識と技術をアップデートし続けることが前提になっている点は、他の名称独占資格と比べても厳しめの設計だといえます。
他の緑化・森林系資格との違い
「樹木や自然に関わる資格」という括りでは、森林インストラクターもよく比較対象に挙がります。ただし役割はかなり異なります。
| 比較項目 | 樹木医 | 森林インストラクター |
|---|---|---|
| 実施団体 | 一般財団法人日本緑化センター | 一般社団法人日本森林インストラクター協会 |
| 主な役割 | 樹木の診断・治療、樹勢回復の専門家 | 森林・林業の知識を一般向けに伝える「森の案内人」 |
| 中心となる活動 | 個々の樹木の健康状態の調査・処置 | 森林内での案内、教育、野外活動の指導 |
| 受験の間口 | 実務経験5年以上が前提 | 実務経験の年数要件は樹木医ほど厳しくない |
同じ「樹木や森に関わる」資格でも、樹木医は個々の木を治療する臨床寄りの専門職、森林インストラクターは森林全体を一般の人に伝える教育・案内寄りの資格、と役割の軸がまったく違います。どちらを取るべきかは「木そのものを診断・治療したいのか」「森の魅力を人に伝えたいのか」という目的で決めるのが近道です。
よくある質問
Q. 樹木医は独学で取得できますか?
A. 第1次審査(選抜試験)自体は独学での対策が可能ですが、そもそも応募資格として業務経歴5年以上(樹木医補は1年以上)が必須のため、実務経験を積まずに「勉強だけ」で取得することはできません。
Q. 樹木医の仕事だけで独立開業できますか?
A. 業務独占資格ではないため、樹木医の資格がなくても樹木の診断・治療を行うこと自体は可能です。ただし公共工事の受注や自治体・造園会社からの信頼獲得の場面では、樹木医の資格が実質的な要件・強みになるケースが多いとされています。独立開業の可否や需要は地域・実務経験によって差が大きいため、一般論としての断定は避けます。
Q. 樹木医補を取得すれば必ず樹木医になれますか?
A. いいえ。樹木医補はあくまで樹木医試験への応募に必要な実務経験年数を5年から1年に短縮する制度で、その後の第1次審査・第2次審査に合格する必要がある点は一般の受験者と同じです。
Q. 受験は全国どこでもできますか?
A. 第1次審査(選抜試験)の会場は北海道(札幌)、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の6か所です。第2次審査(樹木医研修)の実習は茨城県つくば市に固定されています。
Q. 樹木医の資格は一生有効ですか?
A. いいえ。令和元年認定の樹木医から、5年ごとにCPD(継続研鑽)100単位以上の取得を条件とする登録更新が義務化されています。
Q. 樹木医と造園技能士はどう違いますか?
A. 造園技能士は技能検定制度にもとづく国家資格で、庭園の施工・剪定など造園作業の技能を認定するものです。樹木医は個々の樹木の診断・治療に特化した民間資格である点が異なります。両者は競合するというより、実務では補完的な関係になることが多い資格です。
Q. 樹木医研修は仕事をしながら受講できますか?
A. 講義部分はWeb配信(2週間程度)のため仕事と両立しやすい一方、実習は茨城県つくば市で6日間(月〜土)連続の日程が組まれているため、この期間はまとまった休みを確保する必要があります。
まとめ
樹木医は、国家資格ではなく日本緑化センターが認定する名称独占の民間資格です。しかし応募には業務経歴5年以上(樹木医補は1年以上)が必須で、約100名まで絞り込む選抜試験、6日間の実習を含む樹木医研修、面接まで課される多段階の審査を経てようやく認定される、実務経験と学習の両方が求められる資格です。かつては農林水産大臣の認定を受けていたものの規制緩和で制度そのものが廃止され、現在は公益事業として継続しているという経緯も、他の資格にはあまり見られない特徴といえます。取得を検討する場合は、まず自分の実務経験が応募資格を満たしているか、直近の募集要項で確認することから始めましょう。
出典
- 一般財団法人日本緑化センター「樹木医制度」 https://www.jpgreen.or.jp/treedoctor/ (2026年9月12日確認)
- 一般財団法人日本緑化センター「樹木医になるまで」「選抜試験と樹木医研修」「応募手続き」各ページ(2026年9月12日確認)
- 一般財団法人日本緑化センター「樹木医補資格認定制度」 https://www.jpgreen.or.jp/jyumokuiho/02_daigaku.html (2026年9月12日確認)
- 一般財団法人日本緑化センター「令和8年度 樹木医資格認定試験 受験の手引き」「第1次審査合格者(令和3〜8年度)」「樹木医制度の歩み」「樹木医登録者数・更新者数」(2026年10月4日確認)
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